⭐️⭐️⭐️
Black Sabbath
“Master of Reality” (1971)
遅くて重苦しいギター・リフは、まるで地を這う重機のようだ。そしてそれが突然狂ったように猛スピードで暴れ出す。
ヘヴィ・メタルというと真っ先にそのスピードの速さのイメージがあるが、その前にやはり「ヘヴィ」でなければならないのだ。
後に「ドゥーム・メタル」などと呼ばれることになる、遅いテンポと重いサウンドのメタル小ジャンルの元祖と言うべきアルバムが本作だろう。
ブラック・サバスのギタリスト、トニー・アイオミは17歳のときに板金工場で右手の中指と薬指の先を切断する事故に遭っており、左利きの彼は、ギターのフレットを抑える指がひどく痛むことに悩まされ続けていた。
本作の制作中に、またその指が痛みだしたのだろう。指の負担を軽くするために、ギターのチューニングを1音半下げ、弦の張りを緩めて弾いたことによって、重苦しいヘヴィなギター・リフの見本市みたいなアルバムに仕上がった。
本作は1971年7月にリリースされた、ブラック・サバスの3rdアルバムである。全英5位、全米8位のヒットとなった。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 スウィート・リーフ
2 アフター・フォーエヴァー
3 エンブリオ
4 チルドレン・オブ・ザ・グレイヴ
SIDE B
1 オーキッド
2 ロード・オブ・ディス・ワールド
3 ソリテュード
4 イントゥ・ザ・ヴォイド
オープニングの「スウィート・リーフ」は一度聴いただけでその重量感のあるリフが耳にこびりついて離れない。スピード感のあるリフと地面を削るような重いリフが交互に現れるA2「アフター・フォーエヴァー」もカッコいい。A4「チルドレン・オブ・ザ・グレイヴ」はまさにヘヴィ・メタルの古典のような代表曲だ。A面は完璧である。
バロック音楽みたいな短いインストがときおり挟まったり、フルートが入った静かな「ソリテュード」や、ラストは超重量級のリフによる「イントゥ・ザ・ヴォイド」と、曲調もバラエティに富み、最後まで飽きさせない。
そして、これだけ重く、暗くても疲れずに聴き通せるのは、オジー・オズボーンのあのどこか愛嬌のある、程よく力の抜けた歌声が好対照となっているからだろう。
90年代のニルヴァーナを始めとするシアトルのグランジ勢や、スマッシング・パンプキンズなどのサウンドの源流がここにある。
↓ アルバムの冒頭を飾る「スウィート・リーフ」。
↓ ブラック・サバスの代表曲のひとつとなった「チルドレン・オブ・ザ・グレイヴ」
(Goro)