The Rolling Stones
No Expectations (1968)
1962年、20歳のブライアン・ジョーンズがジャズ・クラブでエルモア・ジェイムスの「ダスト・マイ・ブルーム」を演奏しているのを、観客として来ていたミックとキースが聴いて惚れ込んだときにザ・ローリング・ストーンズは転がり始めた。同時にロックの歴史も動き始めたのだった。
初期ストーンズの音楽スタイルはブライアンによって作られたものだが、ひとりだけ金髪で、学者のようにも悪魔のようにも見える顔立ちの彼は、バンドのビジュアルイメージにもまた、重要な役割を果たしていたと思う。
初期ストーンズが危うく偽ビートルズみたいにならずに、まあ好みにもよるが、ビートルズより圧倒的にロック的なカッコ良さを音楽的にもイメージ的にも備えていたのは、ブライアンがいたことが最大の要因だろう。
しかし60年代が終わろうとする頃にはすでに重度の薬物依存に陥り、レコーディングにも参加しなくなったブライアンは、1969年6月に、ミックとキースからストーンズを脱退することを勧められ、それを受け入れた。要するに彼は、自分が作ったバンドを、解雇されたのである。
それからわずか4週間後、彼は自宅のプールで死んでいるのを発見された。
死因ははっきりしていないが、アルコールとドラッグを伴った事故死とされている。
この「ノー・エクスペクテーションズ」は1968年のアルバム『ベガーズ・バンケット』に収録されている。
ミックは「マジで100%打ち込んでるブライアンを見たのは、”ノー・エクスペクテーションズ”が最後だった」と振り返っている。
ブライアンはこの曲でも、最初の出会いでミックとキースが惚れ込んだ、スライド・ギターをいている。
まるで荒れ果てた精神の中で、まだ微かに灯っている風前の炎が、美しく揺らいでいるようにも聴こえる。
わたしは、この世が不条理なのか、わたしが間違っているのか、ときどきわからなくなってやりきれない気持ちになるけれども、そんなときにこの曲を聴いて波立つ気持ちを静めたくなる。
この曲を聴きながら思いに耽ると、この世に頑として存在するのは大地と海と川と風だけで、わたしを含めたすべての生き物は明滅する光のような一瞬の存在にしかすぎず、そう思うと、不安に慄いたり、怒りや悲しみで心を震わせることなども、なんだかもう、どうでもよくなってくるのである。
(Goro)