The National
“High Violet” (2010)
ザ・ナショナルなんて名前なので、てっきりネオナチみたいな連中がハードコアでもやってるのかと思って聴いてみたら、全然違っていた。
フロントマンのマット・バーニンガーはこのバンド名の由来について、過去のインタビューで「街を歩けば”The National 〜”という文字はあちこちで見かける。そんな特に意味のない、無難でシンプルな言葉を選んだんだ」と明かしているけれども、昭和の日本のバンドが「街でよく見かける電器屋さんの看板から取った」と言ってるようなものだろうか。 それならまあ、わかる。
そんな特に意味のない無難な名前のバンドの音楽性はしかし、私的で内省的であり、心の奥底の深いところを覗いたり晒したりするようなシリアスなもので、無難でもなんでもない。心安らぐかと思えば、心ザワつかせたり、明るい調子で気持ち良く聴いていれば、いつのまにか不安な闇に包まれていたり。
わたしはそのマット・バーニンガーの声に最も惹かれる。一聴すると、朴訥な、感情表現が乏しいバリトン・ヴォイスのようにも聴こえるが、聴いているといつの間にか心を掴まれて夢見心地となり、その音楽の中に深く沈み込んでいくような感覚になるのである。唯一無二と言っていい、独特の声だ。
本作はそんなザ・ナショナルが2010年5月に4ADからリリースした5枚目のアルバムである。
【オリジナルCD収録曲】
1 Terrible Love
2 Sorrow
3 Anyone’s Ghost
4 Little Faith
5 Afraid of Everyone
6 Bloodbuzz Ohio
7 Lemonworld
8 Runaway
9 Conversation 16
10 England
11 Vanderlyle Crybaby Geeks
ストリングスや管楽器を贅沢に使っていながら、これほどまでに地味な印象になる音楽もめずらしいが、しかし間違いなく感動的な作品である。陰鬱でダークでありながら、美しさと誠実さがそれを上回る。
前作『ボクサー』は批評家から絶賛されたものの、全米68位、全英57位とまだまだカルト的な人気のバンドの域を出なかったが、本作は全米3位、全英5位など、世界的なブレイクを果たし、商業的な成功も勝ち得た。
この【名盤500】で初めて選ぶ2010年代の名盤となったけれども、こんなバンドのこんな作品が支持された時代なら、この先も楽しみでならない。
↓ 本作の1曲目を飾る「Terrible Love」。不穏で生々しいギターのノイズから始まり、後半は感情が炸裂して壮大な美しさへと展開していく。
↓ 本作のリード・シングル「Bloodbuzz Ohio」。バンドの全キャリアを通じても最も人気の高い楽曲のひとつだ。
(Goro)
