ブルース・スプリングスティーン【名曲ベストテン】BRUCE SPRINGSTEEN Best 10 Songs

チャプター&ヴァース

わたしにとってブルース・スプリングスティーンは、初めて本気で好きになった洋楽アーティストだった。だから思い入れが深い。

当時わたしは16才で、無謀にも徒手空拳で社会に彷徨い出て、未来への恐ろしいばかりの不安と、不相応な欲望と、なんの根拠もないサクセスストーリーの夢を抱えたまま、ふらふらよろよろと自分の居場所を探していた。

スプリングスティーンの歌に出てくる人々は、アメリカの地方都市や田舎町で暮らし、華やかな生活や成功と無縁の人生を送る、生涯通じてうっすらと閉塞感を抱えたまま生きている人々、ほんのささやかな幸せを手に入れるために身を粉にして働く人々、知識が足りずに選択を間違ってしまった人々、欲望に勝てずに人生を踏み外してしまった人々、酒やクスリに溺れる人々、理由もなく殺人を犯す者、などなどだ。

ワーキング・クラスや社会の底辺に向けられるスプリングスティーンの眼差しに共感し、なにひとつ持たない若者が夢に縋り付き、わずかな可能性に賭けて町を出て行く、そんな歌に自分を重ね合わせたかったのかもしれない。

1973年にデビューし、3rdアルバム『明日なき暴走』でアメリカの新しいロックンロール・ヒーローとなり、大ヒットアルバム『ボーン・イン・ザ・USA』では80年代アメリカを象徴するロック・アーティストとなったブルース・スプリングスティーン。70代になってもコンスタントにアルバムをリリースし、現在も第一線で活躍中だ。

そんなブルース・スプリングスティーンの、たくさんありすぎる名曲の中から、現在のわたしが愛する【名曲ベストテン】を選んでみた。大ヒット曲や有名曲がはずれていたりするけれども、なにしろ40年以上も昔から聴いているので、すでに何周もした挙句のベストテンであることをご理解いただければ幸いである。

第10位 独立の日 (1980)
Independence Day

1980年発表の5thアルバム『ザ・リバー』収録曲。父親が背負ってきた苦労や限界を理解しながらも、息子が「俺はあんたのようにはなりたくない、別の道を行く」と父に告げる歌だ。

「ロックンロールにおける最も感動的な父子の対話のひとつ」と評されたことも。

第9位 ダウンバウンド・トレイン (1984)
Downbound Train

1984年発表の7thアルバム、『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』収録曲。

当時流行の80年代サウンドはスプリングスティーンの楽曲に似合っているとは言い難く、アルバムは賛否両論だったが、全米1位、全世界で3千万枚を売るなど、商業的には大成功となった。

この曲はシングル・カットもされていないし、アルバム中でも地味な曲のひとつかもしれないが、わたしはこの曲が一番好きなのだ。

第8位 ブリリアント・ディスガイズ (1987)
Brilliant Disguise

世界的な大ヒットを記録した『ボーン・イン・ザ・USA』から3年、待望の8thアルバム『トンネル・オブ・ラブ』はその内容もサウンドもまったく違うものだった。

電子音や派手なドラムなど流行の80年代サウンドをあっさり捨て、本来のシンガー・ソングライターに回帰したような、シンプルかつタイトなサウンドの、内省的な作品だった。

この曲はそのアルバムからのシングルで、全米5位のヒットとなった曲だ。男女の関係が冷えていく様を歌っている歌だが、この翌年にスプリングスティーンは離婚することになる。

第7位 57番通りの出来事 (1973)
Incident on 57th Street

1973年発表の2ndアルバム『青春の叫び』収録曲。ニューヨークの57番街を舞台にして、主人公のスパニッシュ・ジョニーと、彼を救おうとするプエルトリカン女性ジェーンの交流を歌った、映画のような壮大な楽曲になっている。

第6位 プロミスト・ランド (1978)
The Promised Land

1978年の4thアルバム『闇に吠える街』収録曲。ハーモニカのイントロが印象的な、アルバム中でもとくに明るく、親しみやすい人気曲だ。

過酷な労働と報われない日常の中で、単なる夢想家ではなく、現実を直視し責任を負う「大人の男」としてのプライドを歌っている。「約束の地」とは、具体的な場所ではなく「人間としての尊厳を取り戻せる場所」という精神的な意味合いだろうと思われる。

第5位 ネブラスカ (1982)
Nebraska

1982年に発表された6thアルバム『ネブラスカ』は、ロック・アルバムを待望していたファンを裏切るような、アコギの弾き語りによる自宅録音という、極めて内省的で地味なアルバムだった。

しかし今では、このアルバムこそスプリングスティーンの本来の魅力が詰まった、傑作であると評価が高まっている。

この曲はアルバムの冒頭を飾るタイトル曲で、死刑を宣告された連続殺人犯の視点で淡々と語られる物語が歌われる、衝撃的な曲だ。

第4位 ハングリー・ハート (1980)
Hungry Heart

5thアルバム『ザ・リバー』からのシングルで、全米5位となった大ヒット曲。日本でも大ヒットした。すべての「満たされない心」を抱えた人々のテーマ・ソングだ。

妻子も仕事も捨ててひとりで旅に出る身勝手な男を歌った歌詞に自分を重ね合わせ、心を揺さぶられたり、どうしようもない孤独を感じたり、自分の間違いについて考えたり、あるいは勇気づけられたりしたものだ。

第3位 ザ・リバー (1980)
The River

スプリングスティーンにとって初の全米1位となった1980年の5thアルバム『ザ・リバー』のタイトル曲だ。若すぎる結婚と経済的な困窮によって、かつての愛情に満ちた輝きを失っていくカップルの姿が歌われる。

アメリカ文学の優れた短編小説のような強い印象を残す歌詞は、共感やら動揺やら虚しさやら、いろんな感情に揺さぶられ、心をザワつかせる。

第2位 明日なき暴走 (1975)
Born to Run

1975年発表の3rdアルバム『明日なき暴走』のタイトル曲で、誰もが知るスプリングスティーンの代表曲だ。

十代の頃に好きになって以来、今でもイントロを聴いた瞬間に胸が熱くなる、そんな曲だ。もしも目の前でこの曲が演奏されようものなら、わたしは知らないおっさんと肩を抱きあって号泣する自信がある。

今どきこんなとことん熱いロックなんか流行らないかもしれないけれども、でもそもそもロックってこういう熱いもんだったよなって聴くたびに思い出させてくれる。

熱い気持ちになれる音楽は素晴らしい。熱くなれなくなったら、もうロックなんか聴かないほうがいいのだ。

第1位 涙のサンダーロード (1975)
Thunder Road

ブルース・スプリングスティーンの出世作『明日なき暴走』のオープニングを飾る曲。

このブログではもう何度も書いているけれども、百万曲のロックの中でもわたしが最も好きな曲のひとつだ。これと同じくらい好きな曲を探すのはなかなか難しい。

この曲を聴くと、今でも一瞬で16才の頃の自分に引き戻される。世界中でひとりぼっちのような心細さと、どんな可能性だってある未来への夢を持った熱い気持ちがよみがえってきて、なんだか泣けてくるのだ。

初めてアルバムを聴くなら、まずは『明日なき暴走』を薦めたい。

ベスト盤なら、1995年にリリースされた『グレイテスト・ヒッツ』が、入門用には最適だ。

(Goro)