R.E.M.
Man on the Moon (1992)
R.E.M.の最高傑作『オートマチック・フォー・ザ・ピープル』からのシングルで、全米30位のヒットとなった、彼らの代表曲のひとつだ。
アンディ・カウフマンという実在の破天荒な芸人について歌っている。
アンディ・カウフマンは70年代後半から80年代前半に活躍した米ニューヨーク出身のコメディアンで、笑わせるというよりは、常に期待や予想をあえて裏切り、番組を滅茶苦茶にしたり、観る者を怒らせたりうんざりさせたりすることを芸風にしていた。1984年に、35歳の若さで癌のために急逝している。
素人女性をリングに上げてプロレスで徹底的に痛めつけたり、ステージでフィッツジェラルドの『偉大なるギャツビー』を何時間もかけてただただ朗読したり、彼の「どこまでが本気でどこまでが冗談かわからない」芸風は、その早すぎた死までもが彼らしい悪ふざけではないかと疑われたという。
この歌は、そんなカウフマンの芸風に、アポロ18号で人類が月面に降り立った(長年、フェイク映像だったと疑われてもいる)ことをかけて、本当かウソかわからないことがあってもいいんじゃないか、そうでなければつまらないよ、と歌っているのだろうとわたしは解釈している。
そしてこの曲の発表から7年後の1999年、アンディ・カウフマンをジム・キャリーが演じた映画『マン・オン・ザ・ムーン』が製作された。
主題歌にはR.E.M.のこの曲が使用され、曲のタイトルがそのまま映画のタイトルとしても使われた。監督はよほどR.E.M.のこの曲が気に入っていたのだろう。
監督は『カッコーの巣の上で』『アマデウス』でアカデミー賞を2度獲得している巨匠、ミロス・フォアマンだ。
わたしもこの映画を楽しんだが、カウフマン役のジム・キャリーはさすがの素晴らしさだった。わたしのいちばん嫌いなタイプの、独りよがりでまったく面白くない芸人を、見事に演じていた。
曲はいかにもR.E.M.らしい、アコースティック楽器を基調にした、奇を衒うことなど決してしない、C.C.R.ぐらいシンプルなサウンドだ。
刺激的ではないかもしれないけれども、その代わりに10万回聴いても飽きない。
(Goro)