完成度の低さがウリの痛快ヘタウマ 〜ペイヴメント『スランティッド・アンド・エンチャンティッド』 (1992)【最強ロック名盤500】#36

Slanted & Enchanted [12 inch Analog]

⭐️⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#36
Pavement
“Slanted and Enchanted” (1992)

米カリフォルニアのバンド、ペイヴメントが1992年4月にリリースした1stアルバムだ。

その全体的に完成度の低いヘロヘロな感じが、ハイ・ファイの逆の「ロー・ファイ」と呼ばれ、ポップなメロディーとの組み合わせが新鮮で、人気を博した。

日本語で言うと「ヘタウマ」みたいなものか。
当時流行していたオルタナティヴ・ロックの、さらに一段下をいった塩梅だ。
世の中何が受けるかわからない。

特にひどいのは、まるでダンボールでも叩いているようなドラムだ。ロック史上いちばん貧乏臭いドラムの音だと思う。なのにこのドラムがなぜか楽曲を生き生きとさせる力強さやリアリティを持っているから不思議なものだ。

このドラムを叩いているのは、デビュー当時一人だけ40歳だったギャリー・ヤングだが、もともとヴォーカルのマルクマスとギターのカンバーグが使っていた音楽スタジオの経営者だったという。頼まれてもいないのに「そこはこうした方がいい」などと口出しをしているうちに、正式にメンバーになったという。

高級料理みたいにしっかり作り込まれた音楽ももちろんいいけど、えっこれで完成なの? と思わせるような、もんじゃ焼きみたいなジャンクフードもまたいいものだ。

まあそれもスティーヴン・マルクマスの書く、曲の良さが芯にあってのことだが。

ギャリーはライヴのステージでは逆立ちを披露するなど盛り上げ役で人気者でもあったが、アル中&ヤク中であり、勝手にメジャー・レーベルと契約したりと暴走し始めたことで、翌年にはクビになってしまった。

2ndアルバムからは別のまともなドラマーが叩いていて、世間的には2nd以降の方が評価が高いようだが、わたしにはなんだかペイヴメントの個性や奔放さが薄れてしまったように感じてあまり好きにはなれなかったな。

↓ ペイヴメントのデビュー・シングル。米国でも英国でもチャートにはまったくかすりもしていないが、わたしにとってはこの年最高のシングルのひとつだった。

Summer Babe (Winter Version)

(Goro)