⭐️⭐️⭐️⭐️
Pixies
“Bossanova” (1990)
1990年8月にリリースされたピクシーズの3rdアルバム。
サーフ・ミュージックやスペース・ロックの要素を取り入れて、よりポップになった。エコーを強めにかけたサウンド・プロデュースのせいもあって荒々しさは影を秘めたが、ハチャメチャさは相変わらずである。もちろんいわゆる「ボサノバ」の要素なんてどこにもない。
前作『ドリトル』の評価がかなり高かったことから期待は募り、アルバムは全英3位と、イギリスでは大ヒットした。本国アメリカでは全米70位と、依然として大化けはしていないものの、シングルの「ヴェローリア」(米オルタナティヴ・チャート4位)「ディグ・フォー・ファイア」(同11位)は一応その筋ではヒットし、学生を中心に支持されて、R.E.M.と人気を二分する存在となっていた。
ただし、本作はそれまでのピクシーズとやや印象の違うサウンドのため、当時は賛否両論だった。
わたしも戸惑った。荒々しいギター・ロックを復活させた張本人のはずだったのに、なんだかちょっと、ポップで聴きやすくなってるじゃないの、などと思ったものだった。
当時のわたしはもっと荒っぽい刺激が欲しかったのだ。
そんな記憶だったので、これは名盤500には入らないかなあ、などと思いながら数十年ぶりに聴いてみたら、いや、全然良いじゃないの。
オープニングのインストのサーフ・ロック(サーフトーンズのカバー)もカッコいいし、次の「ロック・ミュージック」はデブのブチギレ具合が凄まじい。そして続く「ヴェローリア」はピクシーズ屈指の名曲だ。「オール・オーヴァー・ザ・ワールド」「ストーミー・ウェザー」などの佳曲もいい。歌詞には未確認飛行物体やエイリアンも出てくる。
ブラック・フランシスのソングライティングに成長が感じられ、充実した内容になっている。めちゃくちゃ良いじゃないかと、完全に見直してしまった。『サーファー・ローザ』や『ドリトル』に比べてまったく引けをとらないので、落とすわけにもいかなくなってしまった。
やっぱりピクシーズは最高だ。今聴いても良いな。
しかし残念ながら、すでにこの頃からバンド内の亀裂は深まっていたと言う。
翌91年にリリースした4thアルバム『世界を騙せ (Trompe le Monde)』は、荒々しいギターが戻っては来たものの、あのユーモアに溢れた楽しげなピクシーズの雰囲気はなく、楽曲も印象に残るものが少なかった。
結局それがラスト・アルバムとなり、そして93年には解散を発表した。90年代ロックの立役者となったバンドだったが、盛り上がりを見せるロックシーンの真っ只中で、惜しまれつつもイチ早く消えてしまうこととなったのだった。
↓ 英BBCの番組『トップ・オブ・ザ・ポップス』に「ビデオ付きシングルの曲しか演奏できない」という変な規定があったため、急拵えされた「ヴェローリア」のMV。
採石場で撮った23秒の映像をただスローモーションで引き伸ばすというこの世で最もしょうもないMVだ。しかも彼らは結局『トップ・オブ・ザ・ポップス』に呼ばれなかったため、まったくの無駄に終わった。
(Goro)