⭐️⭐️⭐️⭐️
Free
“Heartbreaker” (1973)
英国のバンド、フリーをわたしはこれまで集中的に聴いたことはなかったのだけれども、この機会に、彼らが残した6枚のアルバムをすべて聴いた。結論から言うと、わたしが最も気に入ったのが、彼らの最後のアルバムである、本作だ。
フリーは、独特の音楽性と技術を持った個性の強い4人が奇跡的に集まったような、特別なバンドだった。ブリティッシュ・ハード・ロック草創期を彩ったバンドとして知られるが、どうもわたしには彼らの音楽はいわゆるハード・ロックとはちょっと違って聴こえる。どちらかというとロック・バンドのスタイルで、ディープなソウル・ミュージックをやろうとしているように聴こえる。特に本作はその傾向を強く感じて、わたしはたぶんそういうところが気に入ったのだと思う。
この時期のフリーはしかし、すでに崩壊寸前だった。
ギターのポール・コゾフは深刻なドラッグ中毒で、ライヴで演奏することが困難になっていた。そして、もともとヴォーカルのポール・ロジャースと意見が合わず対立していたベースのアンディ・フレイザーは、ライヴに来ない日が多くなったコゾフの頼りなさにもすっかり嫌気がさし、1972年の半ばで脱退してしまった。
本作はそのような状況で制作された。
ベースに日本人のテツ山内を入れ、ポール・コゾフは5曲だけに参加し、残りの3曲はウェンデル・リチャードソンというギタリストが弾いている。また、新たにキーボードのジョン・”ラビット”・バンドリックが加入した。
フリーの楽曲はそれまでポール・ロジャースとアンディ・フレイザーが共作していたが、フレイザーの脱退によって、本作ではポール・ロジャースがひとりで書いている。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 ウィッシング・ウェル
2 カム・トゥゲザー・イン・ザ・モーニング
3 トラヴェリン・イン・スタイル
4 ハートブレイカー
SIDE B
1 マディ・ウォーター
2 コモン・モータル・マン
3 イージー・オン・マイ・ソウル
4 セヴン・エンジェルス
A1「ウィッシング・ウェル」はシングル・カットされ、全英7位のヒットとなった。ゲイリー・ムーアやパール・ジャムにもカバーされたフリーの代表曲のひとつとなったが、わたしもこの曲が一番好きだ。
ポール・コゾフはA面の全曲とB4でギターを弾いているが、A2「カム・トゥゲザー・イン・ザ・モーニング」では彼らしい強烈なギターを聴かせてくれる。ラストのギターソロの後半では救いを求めるように咽び泣きながら、徐々に力尽きていくようでもあり、胸が締め付けられる。
A3はフリーにしては親しみやすい優しいメロディが印象的だし、B1は心に沁みるソウル・ミュージックだ。そしてA4「ハートブレイカー」のどっしりと遅いテンポのヘヴィなサウンドはこれぞフリーの真骨頂といった感じだ。
キーボードの導入で、これまでのフリーの渋いモノクローム風のサウンドが、天然色とまではいかないまでもセピアカラーぐらいに色がついた感じだ。楽曲も捨て曲なしの充実ぶりだ。まるで、ローソクの火が消える直前の最後の輝きのように。
アルバムは全英7位、全米47位と、3rd『ファイアー・アンド・ウォーター』に次いでよく売れた作品となったが、しかし発売後間もなく、バンドは解散した。
ポール・ロジャースとドラムのサイモン・カークはその後バッド・カンパニーを結成して成功を収め、アンディ・フレイザーもシャークスを結成して高い評価を得た。
ポール・コゾフは健康状態が回復すると、バック・ストリート・クローラーを結成し、2枚のアルバムを発表したが、1975年に再びドラッグ中毒で体調を悪化させ、入退院を繰り返し、多くのライヴをキャンセルするなど活動は不安定になった。
そして、1976年3月19日、コゾフはロサンゼルスからニューヨークへと向かう機内で、肺塞栓症により急逝した。25歳だった。
↓ シングル・カットされ、全英7位のヒットとなった「ウィッシング・ウェル」。
↓ ポール・コゾフのギターも泣かせる名曲「カム・トゥゲザー・イン・ザ・モーニング」。
(Goro)