1970年にデビューしたイギリスのバンド、バッドフィンガーは「悲劇のバンド」として知られている。
ビートルズが設立したレーベル〈アップルレコード〉と契約し、彼らのソングライティングはビートルズのメンバーたちからも絶賛されたほどだったが、レーベル経営のゴタゴタで、制作したアルバムが発売されなかったり、その後ワーナーに移ってもゴタゴタで店頭から彼らのレコードが撤去されたり、悪徳マネージャーに騙されて印税も払ってもらえず極貧生活を強いられたり、バンド内の不和でふたつのグループに分裂して活動したり、挙句の果てには才能ある2人のソングライター、トム・エヴァンスとピート・ハムが共に自殺するというあまりにも悲劇的な末路を辿ったバンドだった。
素晴らしい才能を持つグループが、その作品やパフォーマンスの素晴らしさよりもゴタゴタのほうが目立ち、その才能を充分に発揮できず、広く聴かれないことがなによりも不幸だったが、90年代に入ってから彼らの音楽は〈パワー・ポップ〉の祖として再評価された。
〈パワー・ポップ〉とは曖昧な言葉だけれども、簡単に言えばザ・フーのようにパワフルなバンド・サウンドとビートルズのようにポップなメロディを併せ持ったロックのことだ。
60年代ブリティッシュ・ビートの後を継いだバッドフィンガーは、美しいメロディとパワフルなサウンドで数々の名曲を発表し、ロックのど真ん中を行く王道の姿を示して見せた。
以下はわたしがお薦めする、最初に聴くべきバッドフィンガーの至極の名曲5選です。
Carry On Till Tomorrow
1stアルバム『マジック・クリスチャン・ミュージック(Magic Christian Music)』収録曲。
日本でのみシングル・カットされ、当時そこそこヒットしたようだ(初期のバッドフィンガーは、本国よりもなぜか日本で人気があったのだ)。陰影の濃いメロディアスな曲想は、日本人好みと言えるのかもしれない。
No Matter What
バッドフィンガーの名盤としてもパワー・ポップの名盤としても名高い2ndアルバム『ノー・ダイス(No Dice)』からのシングルで、全英5位、全米8位の大ヒットとなった。
ガツンとくるパワフルなギター・サウンドと親しみやすいメロディを併せ持つこの曲はまさにパワー・ポップのお手本のような名曲だ。
Without You
2ndアルバム『ノー・ダイス(No Dice)』収録曲。ニルソンやマライア・キャリーがカバーして大ヒットした、超有名曲だ。
この名曲がバッドフィンガーのオリジナル・バージョンではヒットしなかった(シングル・カットすらされなかった)のもバッドフィンガーの不幸のひとつに数えられるかもしれない。
Day After Day
3rdアルバム『ストレート・アップ(Straight Up)』からのシングルで、全英10位、全米4位の大ヒットとなった。
一聴してビートルズを彷彿とさせるが、プロデュースはジョージ・ハリスン、ギターも彼が弾いている。
Know One Knows
6枚目のアルバム『素敵な君(Wish You Were Here)』収録曲で、あまり知られていないがわたしが特に好きな曲だ。
途中で日本語のセリフが入ってくるが、これはスタジオに見学に来ていたサディスティック・ミカ・バンドのヴォーカリスト、加藤ミカである。
突然ピート・ハムから英詞を渡され「これを日本語に訳して読み上げてみてくれ」と言われ、言われた通りにしたら、それが録音されていたという話だ。
以上、はじめてのバッドフィンガー【必聴名曲5選】でした。
(Goro)