宇宙空間をサーフィンする 〜ピクシーズ『ボサノヴァ』(1990)【最強ロック名盤500】#20

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⭐️⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#20
Pixies
“Bossanova” (1990)

サーフ・ミュージックやスペース・ロックの要素を取り入れて、よりポップになった、ピクシーズの3rdアルバム。1990年8月にリリースされた。

エコーを強めにかけたサウンド・プロダクションのせいもあって荒々しさはやや影を秘めたが、はっちゃけっぷりは相変わらずである。もちろん、いわゆる「ボサノヴァ」の要素なんてどこにもない。

前作『ドリトル』の評価がかなり高かったことから期待が募り、アルバムは全英3位と、イギリスでは大ヒットした。

本国アメリカでは全米70位と、依然としてブレイクまでには至っていないものの、シングルの「ヴェローリア」(米オルタナティヴ・チャート4位)「ディグ・フォー・ファイア」(同11位)は一応オルタナのその筋ではヒットし、学生を中心に支持されて、カレッジ・ラジオではR.E.M.と人気を二分する存在となっていた。

ただし、本作はそれまでのピクシーズとやや印象の違うサウンドのため、当時は賛否両論だった。

わたしも戸惑った。荒々しいギター・ロックを復活させた張本人のはずだったのに、なんだかちょっと丸くなって、大人しくなってるじゃないの、などと思ったものだった。

当時のわたしはもっと荒っぽい刺激が欲しかったのだ。

そんな記憶だったので、これは名盤500には入らないかなあ、などと思いながら数十年ぶりに聴いてみたら、いや、全然良いじゃないの。

【オリジナルCD収録曲】

1 セシリア・アン
2 ロック・ミュージック
3 ヴェローリア
4 アリソン
5 イズ・シー・ウィアード
6 ANA
7 オール・オーバー・ザ・ワールド
8 ディグ・フォー・ファイヤー
9 ダウン・トゥ・ザ・ウェル
10 ハプニング
11 ブロウン・アウェイ
12 ハング・ワイアー
13 ストーミー・ウェザー
14 ハバリナ

オープニングのインストのサーフ・ロック(サーフトーンズのカバー)もカッコいいし、次の「ロック・ミュージック」はデブのブチギレ具合が凄まじい。

そして続く「ヴェローリア」はピクシーズ屈指の名曲だ。「オール・オーヴァー・ザ・ワールド」「ストーミー・ウェザー」などの佳曲もある。歌詞には未確認飛行物体やエイリアンも出てくる。ブラック・フランシスのソングライティングに成長が感じられ、充実した内容になっている。

めちゃくちゃ良いじゃないかと、完全に見直してしまった。『サーファー・ローザ』や『ドリトル』に比べてまったく引けをとらないので、落とすわけにもいかなくなってしまった。

やっぱりピクシーズは最高だ。今聴いても良いな。

しかし残念ながら、すでにこの頃からバンド内の亀裂は深まっていたと言う。

翌91年にリリースした4thアルバム『世界を騙せ (Trompe le Monde)』は、荒々しいギターが戻っては来たものの、あのユーモアに溢れた楽しげなピクシーズの雰囲気はなく、どことなくピリピリした空気感が、良くない感じで滲み出ている気がした。楽曲も印象に残るものが少なかった。

結局それがラスト・アルバムとなり、そして93年には解散を発表してしまう。

90年代ロックの立役者となったバンドだったが、盛り上がりを見せるロックシーンの真っ只中で、惜しまれつつもいち早く消えてしまうこととなったのだった。

↓ 英BBCの番組『トップ・オブ・ザ・ポップス』に「ビデオ付きシングルの曲しか演奏できない」という変な規定があったため、急拵えされた「ヴェローリア」のMV。採石場で撮った23秒の映像をただスローモーションで引き伸ばすというこの世で最もしょうもないMVだ。しかも彼らは結局『トップ・オブ・ザ・ポップス』に呼ばれなかったため、まったくの無駄骨に終わってしまった。

↓ 米オルタナ・チャート11位まで上昇した「ディグ・フォー・ファイヤー」

(Goro)

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