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“Velvet Goldmine”
監督: トッド・ヘインズ
主演:クリスチャン・ベール、ジョナサン・リース=マイヤーズ
ややこしい映画だ。
デヴィッド・ボウイやイギー・ポップという実在の人物をモデルにしたキャラクターを使って架空の物語を描く、という設定がもうややこしい。
名前こそ変えてあるけれど、あきらかにボウイ、あきらかにイギー(”T.V. Eye”を歌うシーンもある)なのに、実話ではないのだ。
時代は1980年代、主人公・アーサー(クリスチャン・ベール)という若い新聞記者が、10年前にステージ上で銃撃されて死んだとされる伝説のグラム・ロック・アーティスト、ブライアン・スレイド(ボウイをモデルにしたやつ)の謎を追う取材を始める。
しかし、スレイドが殺されたというのは実は演出で、実際は死んでいないことがわかり、スレイドの元マネージャーや元妻に取材を進めるうち、現在のスレイドは政府公認の〈優良ロッカー〉になっていた、という真相にたどり着く。
この、軸となるスレイドの、死んだと思ったら死んでなくて、ダサいアーティストになって活躍していた、でも世の中の誰も気づいていない、というリアリティのない話にもう、ちょっとついていけないところがある。
そしてもうひとつの軸として、記者のアーサー自身の過去が明かされていくストーリーが同時進行する。
実はアーサーは少年時代にスレイドに魅せられ、それをきっかけに同性愛に目覚めた。
取材を進めながら、自分の少年時代を思い出し、親兄弟や同級生などに同性愛を責められたり虐められたりしてきた過去が明かされていく。
監督のトッド・ヘインズはゲイであることを公言しているので、監督の想いをアーサーに投影しているのかもしれない。もしかすると監督の自伝的な要素もあるのかもしれない。
この映画は70年代のグラム・ロックの流行と当時のファッションやカルチャーなどを美しくカッコ良く再現してはいるものの、音楽を主題にしているわけではない。
主題はあくまで、グラム・ロックが持つホモセクシュアルの要素である。
デヴィッド・ボウイの音楽家としての活動が描かれているわけではなく、バイセクシュアルだったという性癖と、彼が当時のカルチャーに与えた影響が描かれているだけだ(ボウイの楽曲の使用許可も下りなかったため、ボウイっぽい音楽が使用されている)。
さらにややこしくしているのは、スレイド(=ボウイ)をきっかけに同性愛に目覚めたという主人公を描いている映画なのに、そのボウイをやけに批判的でネガティヴに描いているのが謎なのだ。
スレイド(=ボウイ)とワイルド(=イギー)とのボーイズ・ラブ的なエピソードにしても、実際のボウイがドラッグで廃人になりかけていたイギーに救いの手を差し伸べ、復活させたという美談が、なぜこんなダークでネガティヴな感じで扱われているのか理解に苦しむ。
また、この映画の裏の軸として、100年前にオスカー・ワイルド(ホモセクシュアルで有名な作家)が宇宙から飛来した宝石を手に入れ、それがワイルド(=イギー)へ、そしてアーサーへ受け継がれていく、というもうひとつ裏の軸もある(それがどういう意味なのかはわからないけれど)。
だからまあ、SFファンタジー・ボーイズ・ラブ・ストーリーと捉えてもいいのだけれど、当時まだ存命中の超有名人を使って、実話と虚構を混ぜこぜにして描くから、もうわけがわからない。
(Goro)