ハード・ロックの新たな扉を開いた画期的傑作 〜ヴァン・ヘイレン『炎の導火線』(1978)【最強ロック名盤500】#252

炎の導火線

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【最強ロック名盤500】#252
Van Halen

“Van Halen” (1978)

米カリフォルニア州出身のバンド、ヴァン・ヘイレンが1978年2月にリリースした1stアルバムだ。

中学3年の夏休みが終わりに近づいた頃だったと思う。このアルバムをわたしに聴かせたのは同じクラスのバカな同級生だった。周囲はすでに高校入試に向けて受験勉強の真っ只中というのに、早々と進学をあきらめたバカ二人、つまりそいつとわたしは自然とつるむようになっていた。

彼はちょうどヘヴィ・メタルを知り始めたばかりで、それに夢中になっていた。なんだか薄気味悪いジャケットのレコードを買い揃えて、わたしに見せてくれた。わたしはそんな趣味の悪いバカとは遊びたくないと思っていたが、他に誰も遊ぶ相手がいないので、仕方なく彼の家に毎日行き、彼の薦めるヘヴィ・メタルのレコードを一緒に聴いた。世界にバカが二人残されても、やはりなんら有意義な活動は生まれないものだ。

家にレコードプレーヤーが無いわたしのために、彼はレコードからカセットテープにダビングしてくれたりもした。彼が特に気に入ってたアイアン・メイデンやジューダス・プリーストやその他いろいろを。

暇なわたしはもらったカセットテープをいろいろ聴いてみたが、どれもあまり好きにはなれなかった。騒々しいし、速すぎるし、まったくもってバカが聴く音楽だと思った。今思えば、まだ洋楽もそれほど聴いたことがないのに、いきなりヘヴィメタは厳しかったのだろう。わたしは当時、RCサクセションや泉谷しげるが好きだったのだ。

ただ、彼がダビングしてくれたカセットテープの中でひとつだけ、やけに聴きやすいものが混じっていた。それがヴァン・ヘイレンの『炎の導火線』だった。

これなら聴けるかも、とわたしは思った。

ヘヴィ・メタルみたいに速すぎないし、随分と聴きやすかった。ヴォーカルも金切り声で叫ぶようなものではなく、ちゃんと歌を歌っている。ギターのことなど何も知らないわたしだったが、「暗闇の爆撃」の異様な物凄さは伝わってきた。ただしどうやって弾いているのかはまったく想像がつかなかった。

「ユー・リアリー・ガット・ミー」という曲を好きになったけれども、それが実はキンクスというバンドの曲であることを知ったのはもう少し先であり、そのキンクスに夢中になってアルバムを集め始めるのはもっと先の話であった。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 悪魔のハイウェイ
2 暗闇の爆撃
3 ユー・リアリー・ガット・ミー
4 叶わぬ賭け
5 アイム・ザ・ワン

SIDE B

1 ジェイミーの涙
2 アトミック・パンク
3 おまえは最高
4 リトル・ドリーマー
5 アイス・クリーム・マン
6 炎の叫び

アルバムは全米19位まで上昇し、その後も売れ続けて、90年代半ばには1,000万枚を超えるセールスを記録した。

エドワード・ヴァン・ヘイレンという天才のギターは、確かにハード・ロック的な鋭利さは存分にあるものの、やたらと攻撃的というわけでもなければ重苦しさもなく、ただひたすら天真爛漫に、縦横無尽に、キラキラと明るく輝きながら、飛び跳ね、駆け回るのである。陽気に、笑いながら。

それまでのハード・ロックの、しかつめらしく、仰々しく、マニアックなイメージとは随分違う、新しいタイプのバンドだった。

ちょうど前年のパンク革命で、一気に過去のものとなってしまったハード・ロックが次々と店じまいを余儀なくされていく中で、あっけらかんと新店オープンし、それまでのハード・ロックの概念を変える、万人向けのポップな新業態で、より幅広い層に受け入れられたのがヴァン・ヘイレンだったと言えるのかもしれない。

80年代へ向けて、ハード・ロックの新たな扉を開いた、画期的な名盤である。

↓ デビュー・シングルとなったキンクスのカバー「ユー・リアリー・ガット・ミー」。全米36位まで上昇した。

↓ 2枚目のシングルは本作のオープニング・トラックでもある「悪魔のハイウェイ」。

(Goro)

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