60年代後半から、アメリカのロックは西海岸を中心に、ヒッピー文化の盛り上がりと共に、サイケデリック・ロックやフォーク・ロック、サザン・ロック、スワンプ・ロック、カントリー・ロック、AORなどへと発展し、巨大音楽産業として発展していった。
しかしそんな流れに逆らうかのように、ニューヨークの新しい世代は、CBGBという小さなライヴハウスを拠点に、刺激的で暴力的で快楽的で、魂と感情を解放するような独自のスタイルの音楽を、D.I.Y.精神で創造していった。それは、再びロックンロールの原点に還ろうとするものでもあった。
彼らは〈パンク・ロック〉と呼ばれ、やがてその衝撃と影響はラモーンズのイギリス・ツアーによって彼の地へと飛び火し、ロンドンを燃え上がらせ、ロック・シーンを揺るがす革命的な一大ムーヴメントへと盛り上がっていく。
ひと口にパンクと言ってもそのスタイルは幅広く、詩的なアート志向であったり、ストレートな剛速球ロックンロールであったり、ヴェルヴェッツ直系のアングラ指向だったり、60年代ポップスへの回帰であったりと様々だった。また、少し遅れて、西海岸にもパンク・シーンは広がっていった。
ここではそんな、〈ヒストリー・オブ・ロック〉には取り上げきれなかった、70年代アメリカのパンク・シーンを代表する、18組18曲を紹介したいと思います。
※この記事は2021年5月2日公開の記事《はじめてのニューヨーク・パンク【必聴10組10曲】》を大幅に加筆・修正したものです。
Patti Smith – Gloria
まずはNYパンクの扉を開いた〈パンクの女王〉のデビュー・シングルから。
「キリストは誰かの罪のために死んだけど、私じゃない」という歌い出しで始まる、自作の詩とゼムの名曲「グロリア」のカバーを繋ぎ合わせた曲だ。
アグレッシヴでエキセントリックなヴォーカルはその後に続くパンク・ロッカーたちに大きな影響を与えた。
Ramones – Blitzkrieg Bop
すべてのパンク・ロックの手本となった、史上初であり史上最高でもあるパンク・バンド、ラモーンズの衝撃のデビュー・シングル。
「ハイ、ホー、レッツ・ゴー!」の掛け声と共にパンク革命は始まり、彼らがイギリス・ツアーを行ったことで、パンクの火種はロンドンにも飛び火したのだった。
Heartbreakers – Chinese Rocks
元ニューヨーク・ドールズのギタリストとドラマー、ジョニー・サンダースとジェリー・ノーランを中心に結成されたバンド、ハートブレイカーズの代表曲。
ソングライターのクレジットには、ジョニー・サンダース、ジェリー・ノーラン、ディー・ディー・ラモーン、リチャード・ヘル、とNYパンクの悪ガキ一味の名前がずらりと並ぶ、まさにNYパンクを象徴する曲だ。ちなみに「チャイニーズ・ロックス」とは、ヘロインの隠語である。
「ハートブレイカーズ/チャイニーズ・ロックス」の過去記事はこちら
Richard Hell and the Voidoids – Blank Generation
今聴いてもリチャード・ヘルのヴォーカルは衝撃的だ。暴力的なギターもカッコいい。刺激的でアグレッシヴな音楽性、文学的でアート志向という、すべての要素が揃った、NYパンクのアンセムとでもいうべき名曲。
「リチャード・ヘル/ブランク・ジェネレーション」の過去記事はこちら
Television – Marquee Moon
ロック史に残る名盤、テレヴィジョンの1st『マーキー・ムーン』収録のタイトル曲。
NYパンクの中でも最もアート志向で文学的指向が強いテレヴィジョンは、どこかひんやりとした狂気の匂いがする。10分以上ある長い曲だが、永遠に聴いていられると思うほど濃密でドラマチックだ。異次元のギター・プレイが堪能できる。
Talking Heads – Psycho Killer
1stアルバム『サイコ・キラー’77 (Talking Heads ‘77)』に収録された、初期の代表曲。
ひと口に「NYパンク」と言っても、その音楽性は多様だ。NYパンクとは、それまでのロックとは違う新しいスタイルを創造したアーティストたちのことだとも言える。
このトーキング・ヘッズなんかは、パンクどころかその後の、ニュー・ウェイヴの先駆者とも言えるだろう。
Blondie – One Way Or Another
ブロンディもCBGBに出演していたことからNYパンクの一派とされているが、その音楽性は60年代ポップスへの回帰というべきものだ。
サウンドはアグレッシヴであったり、ノスタルジックであったり、ニュー・ウェイヴ風であったりと変幻自在。時代にうまくハマって、ヒット曲を連発し、セールス的にも大成功を収めた。
Dead Boys – Sonic Reducer
オハイオ州クリーヴランド市出身ながら、ニューヨークでCBGBを中心に活動していたバンド。カッコいいバンド名だ。
1stアルバム『Young, Loud and Snotty (若くて、うるさくて、薄汚い)』のタイトル通り、NYパンクの中でも随一の、くそパンク(誉め言葉)だ。
「デッド・ボーイズ/ソニック・リデューサー」の過去記事はこちら
Suicide – Ghost Rider
アラン・ヴェガ(ヴォーカル)とマーティン・レヴ(エレクトロニクス)の二人組による、異様なチープさと、真剣だと思うが何を考えているのかはわからない感じが怖い、アヴァンギャルド作。
ニューヨークの地下室で、生きていても仕方のないダメな人たちを集めて繰り広げられる、これ以上はないというぐらい絶望的なダンス・パーティーのようでもある。
このジャケがカッコよくて、このデザインのTシャツが欲しいと30年前からずっと思ってる。今も。
The Contortions – Contort Yourself
サックス兼キーボード兼ヴォーカリスト兼ソングライターの、ジェームズ・チャンス率いるバンドの1stアルバム『BUY』収録曲。
フリー・ジャズをパンキッシュに仕上げたような、アグレッシヴな疾走感と乾いたサウンドが面白い。前衛的でアート志向と言ってもやけに暴力的な迫力はやはりパンク的である。
「コントーションズ/コントロール・ユアセルフ」の過去記事はこちら
Devo – (I Can’t Get No) Satisfaction
この恐るべきカバーを発表するにあたり、ディーヴォは許可を得るためにミック・ジャガー本人に会い、その場で聴かせたという。殺されるかと思いきや、ミック・ジャガーは聴きながら踊り出し、快く許可したという。さらに後に「ストーンズのカバーでいちばん好き」とまで語ったそうだ。
https://www.youtube.com/watch?v=04pbtf5t_LU
The Misfits – Horror Business
超アングラな存在ながらなぜか骸骨ロゴのTシャツは日本でもやたらと見かける、ニュージャージー州出身のミスフイッツ。そのタイトルとジャケットで彼らのイメージを決定づけた3枚目のシングルだ。ナンシー・スパンゲン殺害事件を歌ったとされるアブない内容と、ポップなメロディとハードコアなサウンドが同居した、いかにもミスフイッツらしい、初期の代表曲。
Germs – Lexicon Devil
ここからはL.A.出身のパンクバンド。まずはL.A.パンクシーン最初期に登場したジャームズの2枚目のEP収録曲。
カバーアートにヒトラーのイラストを使うなどナチズムを信奉し、ギグではラリって観客を罵倒し暴力沙汰に度々なっていた狂気のバンドとして知られている。
1980年にフロントマンのダービー・クラッシュがヘロインの過剰摂取で死亡し、バンドは解散した。
The Dickies – Paranoid
L.A.出身のディッキーズの1stシングルは、ブラック・サバスの代表曲のカバーだ。全英45位。ユーモラスでポップでスピード感あふれるパンクを得意とするディッキーズらしい、とにかく勢いに任せたカバーだ。
現在も現役で、40年以上も活動を続けている。ほとんど売れていないのでほんとに食えているのか不思議になるけれども、それでも40年も続いているのだからすごいものだ。
Dead Kennedys – Kill The Poor
サンフランシスコ出身のパンク・バンド、デッド・ケネディーズ(凄い名前だ)の1stアルバム『暗殺』(凄い邦題だ)からのシングル。イギリスのインディ・チャートで2位と地下界隈でヒットした。米社会派ハードコアパンクの草分けとなったバンドだが、メロディが妙にキャッチーなのが面白い。
X – Los Angels
初期L.A.パンクの代表格。インディーズながらよく売れた、名盤1stのタイトル曲だ。男女のツイン・ヴォーカルはパンクにはめずらしいが、アグレッシヴなサウンドながらフォーマットは古き良き時代のロックンロールの香りもするとっつきやすさがある。日本のX JAPANがデビュー後にグループ名に「JAPAN」を付け足したのは、このバンドが存在することを知ったから。
以上、はじめてのニューヨーク・パンク【必聴10組10曲】でした。
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(by goro)