トム・ウェイツの音楽を昼間に聴くことはまず無い。彼の音楽を聴くなら、やっぱり夜に限る。
しかも、なにかをしながらではなくて、独りで、音楽だけに没入して聴きたい。もちろん、なんらかのアルコール類はあったほうがいいけれども。
若い頃のトムの声は、いかにも孤独な男の声だ。
にぎやかで幸福そうな世間からドロップアウトして、夜の街の喧騒に紛れてかろうじて生きている男のような、孤独な呟きだ。
彼の声を聴いていると、われわれはみんな独りなんだとあらためて思う。これまでの人生で出会った様々な人のことを思い出したりもする。みんな、どこでどうしてるのだろう、などと。わたしが知る術もなく、すでにこの世から去った人もいるのだろうな。
未来を想うということは、この年になるともうあまり楽しくないものだ。トム・ウェイツの音楽は、わたしを過去へと誘い、そんななにか大切な感情を思い出させてくれる。
初めてトム・ウェイツを聴く人にも、やはり夜に聴いてほしいと思う。昼間に聴くもんじゃない、なんて言ったら失礼だけれど、夜のほうが彼の音楽は一層心に沁みる。できれば独りの部屋で、あるいは独りの車の中で。
以下はわたしがお薦めする、最初に聴くべきトム・ウェイツの至極の名曲5選です。
Ol’ ’55(1973)
トム・ウェイツの1stシングル。「オール55」とは、1955年型の古い車という意味で、実際にトム・ウェイツが乗っていた、55年型ビュイック・ロードマスターのことらしい。
イーグルスがカバーしたこともあって、トムの曲では最もよく知られた曲のひとつだ。
Martha(1973)
名盤1st『クロージング・タイム』に収録された最も美しい曲のひとつ。
初老らしき男が昔の恋人に40年ぶりに長距離電話をかけ、それぞれ結婚して家族を持ったことを喜び合い、昔のことを語り合いながら、「一緒になれる運命ではなかったけど、それでもおれは君を愛してる」と歌う歌だ。ロマンティックを通り越して、その想いの重さに震える。
Grapefruit Moon(1973)
『クロージング・タイム』収録曲。トム・ウェイツの曲の中で、わたしがいちばん最初に惚れこんだ曲がこれだった。
夜のお店もシャッターを下ろし、隣人たちが眠りに就いた後、真夜中に窓から満月でも見ながら聴きたい名曲だ。
(Looking for) The Heart of Saturday Night(1974)
2ndアルバム『土曜日の夜(The Heart of Saturday Night)』のタイトル曲。
ジャズ・ミュージシャンたちを起用し、よりジャズ色の強いアルバムとなった。土曜の夜に恋の相手を探して夜の街に車を走らせる、孤独な男の歌だ。
Tom Traubert’s Blues
4枚目のアルバム『スモール・チェンジ(Small Change)』のオープニング・トラック。
「土曜日の夜」から2年しか経っていないのに、この声のつぶれ具合は凄い。いったい何があったのだろうと心配になるほどだ。それでも、この美しい曲にこれ以上ふさわしい「悪声」はないと思えるから不思議なものだ。
日本ではなぜか、2009年のフジテレビのドラマ『不毛地帯』のエンディング曲に使われた。
入門用にトム・ウェイツのアルバムを最初に聴くなら、ベスト盤より名盤1st『クロージング・タイム』がお薦め。トム・ウェイツの最高傑作であり、彼の音楽への入り口としてこれ以上のものは無いと思います。
(Goro)
コメント
こんばんわ!
拝読いたしました。たしかに昼間よりも薄暗いバーとかで遅い時間に聴きたいですね笑笑
私はファーストでは「Ice Cream Man」が好きですね~!