英マンチェスターで結成されたザ・ストーン・ローゼスは、1985年にシングル「ソー・ヤング」でインディ・レーベルからデビューした。
その後シングルを2枚出した後、ベーシストがマニに替わって最強布陣となると、1989年5月、当時絶滅寸前だった英国ロックシーンを救った奇跡の1stアルバム『ザ・ストーン・ローゼス』を発表する。
60年代まで遡ったブリティッシュ・ロックと最新のダンス・ビートを融合させ、ノスタルジアと斬新さを兼ね備えたスタイルで若者の支持を得、マンチェスター・ムーヴメントのシンボルとなった。90年代のロック復活への発火点となり、後に隆盛を極めるブリット・ポップの原典ともなった。
当時のわたしは、60~70年代のロックばかり聴いていた。もうロックは古代の恐竜のように死に絶えたものと思っていたからだ。
80年代のロックなんてわたしにはトカゲかカナヘビぐらいにしか思えず、たまにオッと思っても、せいぜいイグアナに出会う程度のことだった。
だから、80年代も終わろうという頃にアルバム『石と薔薇』(当時はそういう邦題だった)を聴いたときは感動に震えた。本物の恐竜の子孫を、ついに見つけたような気分だった。
それをきっかけに、古いロックを聴くのをやめて、リアルタイムのロックを聴き、90年代のロック大復活を毎日肌で感じながら、夢のような気分で過ごしたものだった。
ストーン・ローゼスの音楽はいつ聴いても青春の香りしかしない。
未熟さと若さが纏う特有の甘い蜜のような匂いと、熱に浮かされたような高揚感と、根拠のない自信に溢れた、ちょっと照れくさいけどカッコいい、青春ロックだ。
そんなザ・ストーン・ローゼスの、わたしの愛する【名曲ベストテン】を以下に選んでみた。
Sally Cinnamon (1987)
1987年5月にFMリヴォルヴァーというインディ・レーベルからリリースされた、アルバム未収録シングル。ブレイクする以前で、ベースもまだマニではない。
当時流行していた英国のインディ系ネオ・アコ風のサウンドで、キャッチーなメロディと明るく青臭い空気感が愛おしい。
One Love (1990)
1990年7月にリリースされた、アルバム未収録シングルで、全英チャート4位と過去最高位を記録した。
前年のシングル「フールズ・ゴールド」のファンク路線を踏襲しながらも、さらにキャッチーでわかりやすいサビも付いた、進化系ストーン・ローゼズの完成形とも言えるシングル。
Love Spreads (1994)
1989年に1stを発表して以来、レーベルとの裁判ですったもんだしているうちに、音楽に対するモチベーションを失い、大金を手にして遊び惚け、プロデューサーやスタッフが離れ、5年が経過してしまう。この5年が本当にもったいなかった。
この曲は5年ぶりの2ndアルバム『セカンド・カミング』からのリード・シングルだ。全英2位と、彼らにとってのシングル最高位を記録する大ヒットとなった。
このシングルも悪くないし、当時は素直にローゼス復活を喜んだが、当時の激動のロック・シーンの中での微妙なアンマッチ感は否めず、アルバムは賛否両論だった。
This is the One (1989)
1989年5月にリリースされた1stアルバム『ザ・ストーン・ローゼス』収録曲。
アルバムの最後から2番目に収録され、ラストのクライマックスの前に大いに盛り上げてくれる熱い曲だ。
Begging You (1994)
『セカンド・カミング』からシングル・カットされ、全英15位まで上昇した。
狂ったように爆走するドラムとベースに呼応してギターも高揚していく、アルバム中最もアツい瞬間。凄絶なハイパー・クラブ・ミュージックだ。
Fools Gold (1989)
1stアルバムから半年後に発表されたシングル。当時は「なんじゃこりゃ!?」とリスナーを吃驚させたものだったが、バンドはすでに次の扉を開いて新たな創造に取り掛かったことを示していた。
ファンクをローゼス流に取り入れたものだけれども、こんなことをやってるのはもちろん誰もいなくて、大いに話題になったものだ。それにしても、今聴いても超クールだな。
1989年のNME誌シングル・オブ・ザ・イヤーにも選ばれた。
She Bangs the Drum (1989)
1stアルバムからの、2曲目のシングル。英インディ・チャートで初の1位を獲得した。
ストーン・ローゼズの楽曲はヴォーカルのイアン・ブラウンとギターのジョン・スクワイアの2人が主に書いているけれども、ジョンによれば「ストーン・ローゼズの基本的な発想は、アートとワイルドなサウンドと耳あたりの良いメロディーを一緒にするということ」と語っている。
これもまた、耳あたりが良すぎるくらいのメロディーだ。青春のきらめきが眩しいぐらいの、爽やかな曲だ。
思い出すなあ、わたしのおバカなズッコケ青春時代を。
I Wanna Be Adored (1989)
1stアルバムのオープニングを飾る彼らの代表曲。
サイケデリック・ロックがユルめのダンス・ビートと融合し、浮遊感のあるヴォーカルも相まって、ゆらめくような独特のスタイルを生み出している。
当時はフロントマンのイアンよりも、ドラマーのレニがまず脚光を浴びるというめずらしいパターンだったな。
I am the Ressurection (1989)
1stアルバムの最後にふさわしい感動的なメロディと、滅法カッコいいエンディングを持つ、8分を超える大曲。歌詞の内容は、商業化されたキリスト教を批判した歌なのだそうだ。
エンディングに突入した瞬間のジョンのギター・ソロはいつ聴いてもシビれる。
Made of Stone (1989)
1stアルバムからのリード・シングル。全英シングルチャートの20位まで上昇し、これが彼らのブレイク曲となった。
60年代から脈々と続くブリティッシュ・ポップの王道を堂々と復活させた感じで、最初に聴いたときからグッときたものだった。高揚感がすごいサビは、一緒に歌いたくなる。
ザ・ストーン・ローゼズを初めて聴くなら、まずは1stをお薦めする。ベスト盤やシングル集はその後のほうがいい。
80年代に英国ロックの歴史が途切れようとしたのを救ったその影響力は、ロック史を変えたアルバムのひとつに選ばれるべき重要な役割を果たした作品だ。
ブリティッシュ・ビートのビート感やポップ性だけでなく、サイケデリックやダークな地下感もあり、一筋縄ではいかない、深い味わいを持つアルバムである。
コメント
度々の投稿失礼します。
あの世まで1枚だけ持っていけるアルバムを選ぶなら、僕は彼らの1stです。中学生の頃にビートルズから洋楽の道に分け入りました。GOROさんと同じく、あの当時の音楽もなんとなく聴いていたものの、どうにも深入りできずに、60年代を中心に昔の作品を掘っていた時に出会った彼らの作品は、前世と今世を直接繋いでくれたくらいに衝撃的でした。
翌年から1年間の留学先選定は迷わずロンドンにしたのですが、かの地に到着する直前にスパイクアイランドでのギグがあり、その後の長~い空白は悲しかったですね。それでも、当時ウェンブリーアリーナで行われた小さなフェスでは、場内にPVが流れるだけでも熱狂的な反応があったのを覚えています。
このバンドについて記すと終わらなくなりますのでココまでにします。
あ、一番好きな曲はWaterfall。今はYOUTUBEで当時の動画を観ることのできるよい時代になりましたが、トニー・ウィルソン司会の番組におけるパフォーマンスは、いつ観ても最高ですね。
あー、同じ時代を生きてきた方だなーと嬉しくなりました。
でもあの当時のロンドンの空気を吸えたなんて羨ましい限りです。
少し上の世代の人や、インディ系自体に興味がない人なんかは「何が良いのかさっぱりわからん」なんて言う人もいますが、われわれにとってはやっぱり彼らは特別な存在でしたよね。