The Rolling Stones
SIDE A リトル・レッド・ルースター(ハウリン・ウルフのカバー)
SIDE B オフ・ザ・フック(ジャガー&リチャーズ作)
1964年11月、ストーンズの英国での5枚目のシングルとなったのは、シカゴ・ブルースの巨人、ハウリン・ウルフのカバーだ。
チェス・レコードの屋台骨を支えた名ソングライター、ウィリー・ディクソンの作で、ゆっくりと歩くようなビートとリフにスライドギターがこだまのように響く、真夜中に聴きたい激渋ブルースナンバーだ。
古いデルタ・ブルースが元になっていて、歌詞には小さな赤い雄鶏のことが歌われている。これは「雄鶏が納屋の平和を守る」という古くから南部に伝わる民俗信仰から来ているそうだ。歌われているのは、怠け者で乱暴者だが、誇り高い雄鶏だ。
この激渋ブルースをシングルとしてリリースしたいと主張したのはバンド側だった。キースは自伝にこう書いている。
当時としては大胆な試みだった。レコード会社もマネージャーも、誰も首を縦に振らなかった。しかし、俺たちは波に乗っていると感じていたから、ごり押しできた。一般受けなんてどうだっていい。当時は傲慢だったし、自分の色を出したかった。(中略)トップ10に入るかどうか試してみようぜ、この野郎ってな。鶏の歌だぜ。ミックと俺はひるむことなく堂々と言った。さあ、これが俺たちの歌だ。
(『ライフ』キース・リチャーズ著 棚橋志行訳)
デビューからわずか1年半ですでに傲慢だったというのもストーンズらしいが、当時ビートルズの「ア・ハード・デイズ・ナイト」がトップに君臨していたヒットチャートにこの雄鶏のスロー・ブルースを送り込もうとする気概がまた凄い。
そして、この完全に非商業主義的なシングルは、見事に英シングルチャートの1位を獲得した。イギリスの音楽史上、ブルースソングがシングルチャートの1位を獲得したのは、後にも先にもこれだけらしい。
https://www.youtube.com/watch?v=j-nT_joqmeM
闇の中に浮かんでは消えるようなブライアンのスライドギターの儚い響き、ミックの雰囲気のある歌とブルースハープ、チャーリーのブルージーかつエレガントなドラム。デビューからここまでのストーンズのブルース・カバーの中では最高と言っていい出来だと思う。
それにしてもこの激渋シングルを、あのコンサート会場で気がふれたように絶叫していた少女たちが買って、家で聴いていたのだろうか。そうでなければ1位なんて獲れるわけもない。すごい時代だ。今では想像がつかないほどのブルース・ブームだったのか、それともストーンズの人気がとんでもなかったのか。そんな時代に生まれてみたかった。
B面はジャガー&リチャーズによるオリジナル作だ。
これも、それまでに書かれたオリジナル曲の中では一番良い出来だと思う。ジャガー&リチャーズのソングライティングの成長が見て取れる。
そしてこの3ヶ月後、次のシングルではいよいよあの名曲が誕生するのだ。
ストーンズが60年代にリリースしたシングルはこの『シングル・コレクション:ザ・ロンドン・イヤーズ』で、年代順にA面・B面ともすべて聴くことができる。ストーンズ・ファン必携のアイテムだ。
(Goro)