キース・リチャーズ「やっとバンドの連中に聴かせても恥ずかしくない曲ができた」【ストーンズの60年を聴き倒す】#10

The Rolling Stones – The Last Time (1965, Vinyl) - Discogs

The Last Time / Play with Fire (1965)
The Rolling Stones

SIDE-A ザ・ラスト・タイム(ジャガー/リチャーズ)
SIDE-B プレイ・ウィズ・ファイア(ナンカー・フェルジ)

1965年2月にリリースされたこのシングルは、6枚目にして初めてオリジナル曲がA面に収録された、記念すべきシングルとなった。

A面はジャガー&リチャーズ作、そしてB面はナンカー・フェルジ名義のバンドのオリジナルという、初めての両面オリジナル曲のシングルだ。全英1位、全米9位の大ヒットとなった。

バンド結成当初はオリジナル曲を書くということなど考えてもみなかったミックとキースだったが、マネージャーのアンドルー・オールダムに半ば強制され、キッチンに閉じ込められ、悪戦苦闘しながら曲を書き始めたという。

1990年のインタビューでキースは次のように語っている。

曲そのものはあれこれと二人で結構思いついたんだけどね。いい曲は少なかった(笑)。これだ、と思えるものが書けるようになるまで数ヶ月かかったな。で、それが初めてできたのが「ラスト・タイム」だったんだ。これなら、俺達だって、これまでのように恥じ入ってモジモジしながらじゃなくてさ、堂々と、バンドの連中にもプレゼンできるなと確信したね。(『CUT』1990年5月号)

The Rolling Stones – The Last Time (Live – Ireland 1965)

ストーンズの音楽の絶対的な基盤であるブルース/R&Bの要素を芯に残しながらもポップに仕上げていて、今聴いてもカッコいいギターリフが生み出すバンドのグルーヴ、キャッチーなメロディーはブリティッシュ・ビートの新時代を告げるものだった。

もしもストーンズがあのまま、ブルース/R&Bのカバーだけをやり続けていたら、3年ももたずに消えて行っただろう。実際、同時期のブリティッシュ・ビート・バンドのほとんどはそうやって、カバー以上のものを生み出すことができずに、消えて行ったのだ。

「ザ・ラスト・タイム」は、黒人音楽であるブルース/R&Bを愛した白人の若者たちが、彼らのスピード感とポップ感覚でそれを解釈し、新たな土壌で品種改良されたことによって実った果実、新しい〈ロック〉という音楽の果実だったと言えるだろう。

大袈裟なほど褒め称えたくなるのは、わたしは昔からこの曲が、ストーンズの中でもとくに好きな曲のひとつだからだ。

何度聴いても飽きない。
何年経っても飽きない。

B面の「プレイ・ウィズ・ファイア」もミックとキースの作らしいのだが、なぜかナンカー・フェルジ名義になっている。

Play With Fire (Mono Version)

この2曲はハリウッドのスタジオで録音されたが、ストーンズがツアーを終えてすぐという強行日程だったため、「ザ・ラスト・タイム」のほうはなんとか録音を終えたものの、ミックとキース以外のメンバーは疲労のあまりそのまま床にへたり込んでしまったという。

仕方なくその場にいたフィル・スペクターがベースを手に取り、ジャック・ニッチェがハープシコードを弾くという豪華な伴奏を得て、キースがアコギ、ミックはタンバリンとヴォーカルで録音したという。

上流家庭の少女と歌手の関係について歌われているそうで、タイトルは「火遊びすると火傷する」という意味だ。ハープシコードの響きが特徴的で、ストーンズとしては新境地となった。

この堂々たるオリジナリティと完成度を持った最初のシングル「ザ・ラスト・タイム」でジャガー&リチャーズとストーンズは覚醒した。これはストーンズに訪れた最初の転換点だった。

そしてさらにこの3か月後には、ロック史に燦然と輝く名曲を誕生させ、世界中のチャートで1位を獲りまくり、世界にローリング・ストーンズの名を知らしめるのである。

シングル・コレクション(ザ・ロンドン・イヤーズ)(SHM-CD)

ストーンズが60年代にリリースしたシングルはこの『シングル・コレクション:ザ・ロンドン・イヤーズ』で、年代順にA面・B面ともすべて聴くことができる。ストーンズ・ファン必携のアルバムだ。

(Goro)