『ア・ビガー・バン・ライヴ・オン・コパカバーナ・ビーチ』(2021)
The Rolling Stones
2006年2月8日にブラジル、リオ・デ・ジャネイロのコパカバーナ・ビーチで行われた無料コンサートの模様をフル収録した作品だ。ストーンズの歴史の中でもダントツで最大規模となった、150万人という観客を集めたこのコンサートは、その経費をすべてブラジル政府が持ったという。
今回も例によってBlu-ray1枚とCD2枚組のセット販売の仕様だが、3枚組のアナログLP盤もリリースされている。
- Jumpin’ Jack Flash
- It’s Only Rock ‘n’ Roll (But I Like It)
- You Got Me Rocking
- Tumbling Dice
- Oh No, Not You Again
- Wild Horses
- Rain Fall Down
- Midnight Rambler
- Night Time Is the Right Time
- This Place Is Empty
- Happy
- Miss You
- Rough Justice
- Get Off My Cloud
- Honky Tonk Women
- Sympathy For The Devil
- Start Me Up
- Brown Sugar
- You Can’t Always Get What You Want
- (I Can’t Get No) Satisfaction
いきなり「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」で始まり、そのテンションのままぶっ続けで贅沢三昧のロックンロール・ショーが展開されていく。たしかに150万人もの観客のまえでチマチマした曲などやってられないだろう。全20曲中、スロー・テンポの曲は「ワイルド・ホース」とキースが歌う「虚しい気持ち」だけだ。あとはもう、観客の圧とパワーに負けじとばかりに、フルスロットルのエネルギッシュなライヴとなっている。
「Night Time Is the Right Time」はレイ・チャールズのカバーだ。この曲はその半分ほどをバック・シンガーのリサ・フィッシャーがリード・ヴォーカルを取り、彼女の見せ場となっている。
このコパカバーナ・ビーチでそのハイライトを迎えた〈ア・ビガー・バン・ツアー〉はおよそ2年間かけて32カ国で144回公演を行い468万人+150万人を動員し、5億6千万ドル(当時のレートで約670億円!)の収益を上げた。これは当時、ツアー興行の史上最高の記録だった。
それにしても、東京ドーム30杯分、150万人の観客である。あの悪夢のオルタモントのさらに5倍である。とにかく想像もできない規模だ。いったいどれだけの数の仮設トイレを用意したのだろう、などと考えてしまう。どれだけの警備員が雇われたのだろう、どれだけのビールとシュラスコが販売されたのだろう、交通渋滞はどれほどの規模に及んだのだろう、などと余計なことまで思いを巡らせてしまう。
これだけの浮かれた人々が1箇所に集まってよく一人の死傷者も出ずに済んだものだと思う。ブラジルなんて、と言ったら申し訳ないけど、決してお行儀のいいイメージではないのだけれども、よくまあ何事もなく終わったものだ。コパカバーナ近辺には20以上のスラム街があり、麻薬マフィアが支配しているとも聞く。
そう考えるとこの巨大コンサートの開催を決め、それを無事にやりきったブラジル政府の決断と実行力の素晴らしさに脱帽する思いだ。責任を負うことをビビってばかりいる日本の自治体や政府なら絶対にこの規模ではやらないだろう。
ミックも「驚いたよ。本当にとてもいい観客だった。彼らはああいう機会をどう楽しめばいいのかをよくわかっていたね」とコメントしている。ストーンズもスタッフもよくやりきったと言えるだろう。ひとつトラブルが発生すれば大混乱になっていたかもしれないのだ。
150万人を集めて何事も起こらなかったという、最良の伝説が残された、ロック史上最も讃えられるべきコンサートとして記憶されることだろう。
(Goro)