パンク・ムーヴメント真っただ中の1977年の英国にデビューしたポリスは、パンクを終わらせた元凶のひとつだったのではないかとわたしは睨んでいる。もちろん本人たちにそんな意識はなかっただろうけども。
すでに巨大産業化していたロックを、一瞬で色あせた過去のものにして若者たちの支持を得たパンクの持つリアリティは、初期衝動のその鮮度が命であり、高い演奏技術が無くてもできること、誰でもバンドが出来るということも売りだった。
しかし元ジャズ・ベーシストで驚異的なヴォーカリストでもあるスティングと、元プログレ・バンドのドラマーだったスチュワート・コープランド、元ジャズ・ギタリストでアニマルズのメンバーでもあったアンディ・サマーズという、高度な技術と幅広い音楽性を持つ3人によって作り出された音楽は、単純なパンク・ロックが一瞬で色あせてしまうほどの斬新なものだった。
「パンクのような3コードの単純すぎる音楽をやるのは嫌だったけど、レゲエは音楽的に洗練されてるし、パンク陣営にも受け入れられてるので、パンクとレゲエを融合させてみることにした」とスティングが語るように、ポリスはちょっとだけパンクのふりをして、一生懸命レゲエをカバーしたりしているパンク・バンドたちを横目で見ながら追い越し、レゲエとロックをミックスした唯一無比の音楽を創造してしたのだ。
わたしも若い頃は、ロックなんて熱い想いと闇雲な勢いだけあればなんとかなると思っていたものだったが、ポリスを聴くと、やっぱり想いと勢いだけでは天才やプロフェッショナルにはかなわないという悔しい現実を思い知らされるような気分になったものである。
6年間の活動期間で5枚のアルバムを残し、世界的成功を収めたまさにその頂点でポリスは解散した。その原因は人間関係もあるようだが、ポリスとしてはすでにやり尽くしたということが大きいのだろう。
スティングが自ら言うように「もうひとつアルバムを作っていたら失敗作になっていただろう」と言うのもなんとなく納得できる。頭のいい人たちは散り際もちゃんと心得ているのだろう。
以下は、わたしが愛するザ・ポリスの至極の名曲ベストテンです。
Next To You
1stアルバム『アウトランドス・ダムール(Outlandos d’Amour)』のオープニング・トラック。
「君のためなら車も売るし家も売る。飛行機だって盗むし銀行強盗だってやるぜ」と歌う、まるでダムドかクラッシュみたいな疾走感あふれるパンク・ロックだ。
でもパンク・ロックは最初の1曲だけで、その後はロックとレゲエを融合させた驚異的な新種のロックが続く。このアルバムの登場によってパンク・ムーヴメントは終わりをつげ、ニューウェイヴの時代に突入したと言えるだろう。
Can’t Stand Losing You
1stアルバム『アウトランドス・ダムール』からのシングルで、好きな女の子にフラれて、もう生きていてもしょうがないやと嘆く歌。
シングルのジャケットが、スチュワート・コープランドが首に縄をかけて氷の上に立ってるという自殺を示唆するものだっため、BBCでは放送禁止となったが、それにもかかわらず全英2位のヒットとなった。
Wrapped Around Your Finger
ポリスの5枚目にしてラスト・アルバム『シンクロニシティ(Synchronicity)』からのシングルで、全英7位、全米8位のヒットとなった。
男を意のままに操っている悪魔のような女が、実は逆に男に操られ意のままにされていることに気づいて蒼ざめるという、スティングらしい変態ラヴソングだ。
Don’t Stand So Close to Me
ポリスの3rdアルバムからのシングルで、全英1位、全米10位となった大ヒット曲。
『ゼニヤッタ、モンダッタ(Zenyatta Mondatta)』といういかがわしいアルバム・タイトルのオープニングを飾る曲で、教師を好きになり誘惑しようとする女子生徒のことを歌っている、いかがわしい曲だ。
サビでは教師が「僕に近寄らないで! 僕に近寄らないで!」と連呼するが、きっと近寄られたら我慢する自信がない、ということを歌っているのだろう。
Every Little Thing She Does Is Magic
4枚目のアルバム『ゴースト・イン・ザ・マシーン(Ghost in the Machine)』からのシングルで、全英1位、全米3位となった大ヒット曲。
親しみやすいポップなラヴソングでありながら、しかし謎めいた雰囲気のバース、はしゃぎまくるサビ、ピアノが生きてくるエンディングと、文字通りマジックのように次から次に変化し、それぞれ違う味が楽しめる三層構造のケーキみたいな名曲だ。
Walking on the Moon
2ndアルバム『白いレガッタ(Reggatta de Blanc)』からのシングルで、全英1位の大ヒットとなった。
スティングらしいひねりと高低差が激しい歌メロ、そしてアンディ・サマーズの煌めくようなギター、そしてタイトルにふさわしいスチュアート・コープランドの浮遊感のある独特のビート。まさにこの3人でなければ創造しえない夢幻の音楽の世界だ。
So Lonely
1st『アウトランドス・ダムール』収録曲。ボブ・マーリィの「ノー・ウーマン、ノー・クライ」を参考にして書かれたという、パンクとレゲエを融合させた見事な出来栄えの初期の名曲。
PVは当時の香港と日本でゲリラ的に撮影されたシーンも出てくる。
Every Breath You Take
5thアルバム『シンクロニシティ』からのシングルで、全英1位、全米1位となったポリス最大のヒット曲。
一見、ポリスにしては異様にキャッチーで聴きやすいポップ・ソングとなっているが、しかし歌詞はさすがのスティングで、「おれはつねにお前の一挙一動を見張っている」と、愛する女を徹底的に監視する男の、これまた変態ラブソングである。
Roxanne
ポリスの出世作となったシングルで、全英12位、全米32位と、初めてのヒットとなった。
スティングのヴォーカリストとしての凄さ、ソングライターの才能、そしてポリスというバンドの圧倒的なオリジナリティをたった1曲で世界に知らしめた名曲だ。
Message in a Bottle
2nd『白いレガッタ』からのシングルで、ポリスにとって初の全英1位を獲得、ついに天下を獲った曲だった。
「僕は孤独な日々を送っている遭難者。だれか僕をこの孤独から救ってくれ。そう、ビンにメッセージを詰めて世界に向けてSOSを送ったんだ」と歌う、まるで現代のSNSのことを歌っているかのような内容の歌詞が面白い。メロディもキャッチーで、一度聴いたら忘れられない名曲だ。
入門用にポリスのアルバムを最初に聴くなら、『グレイテスト・ヒッツ』がお薦め。最初に聴くべき代表曲はすべて網羅されています。
(by goro)