キンクス『アーサー、もしくは大英帝国の衰退ならびに滅亡』(1969)【わたしが選ぶ!最強ロック名盤500】#142

Arthur Or The Decline And Fall Of The British Empire [Analog]

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

【わたしが選ぶ!最強ロック名盤500】#142
The Kinks
“Arthur (Or the Decline and Fall of the British Empire)” (1969)

何を隠そう、わたしがキンクスを初めて聴いたのがこのアルバムだ。

わたしは十代で、ストーンズにハマった流れで、他のブリティッシュ・ビート・バンドも聴き始めた頃だった。まだビートルズもザ・フーも多くは聴いていない頃だ。

中古CD店でたまたま見つけ、その長ったらしい妙なタイトルが気になって買ったのだった。

そして一聴して、期待以上の素晴らしさに吃驚したのだ。

最初から最後まで、ずっと素晴らしい。

わたしはハマってしまい、ビートルズどころではなくなり、それからしばらくのあいだキンクスを手当たり次第に聴いていった。

本作は1969年10月にリリースされたキンクスの8枚目のアルバムである。

そして前年の『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』に続く、2作目のコンセプト・アルバムである。

もともとはTVドラマ用に制作された作品だったが、ドラマの計画が頓挫し、コンセプト・アルバムとしてリリースされたという経緯がある。

前作のチャート・アクションはキンクス史上最も低い、全英47位という成績で、商業的に失敗したが、本作はさらにそれを下回る、チャート圏外という成績だった。

内容は、傑作である前作をさらに上回る大傑作なのにも関わらずである。

1stや2ndは全英3位と良く売れた人気バンドだったのに、なぜキンクスがこれほど売れなくなったのか、本作の内容が素晴らしすぎるだけに、よけいにわからない。

「ユー・リアリー・ガット・ミー」のようなディストーションギターによるロケンロールをやめてしまったせいかもしれないし、前作の『ヴィレッジ・グリーン…』から続く、古き良き大英帝国を称えた一見保守的とも取れる、もっと言えばジジ臭いとも取られかねない作風にファンがついてこれなかったか、あるいはやたらとタイトルが長すぎることでキワモノ感が強い印象を与えてしまったのか。

まあとにかくよくわからないのである。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 ヴィクトリア
2 イエス・サー、ノー・サー
3 サム・マザーズ・サン
4 ドライヴィン
5 ブレインウォッシュド
6 オーストラリア

SIDE B

1 シャングリ・ラ
2 ミスター・チャーチル・セッズ
3 マリーナ王女の帽子のような
4 若くて純真な時代
5 ナッシング・トゥ・セイ
6 アーサー

全曲レイ・デイヴィス作のオリジナルである。

シングル・カットされたものの、全英33位とイマイチ売れなかった「ヴィクトリア」は、しかし名曲である。
19世紀末大英帝国のヴィクトリア女王のことで、世界中に植民地支配を拡大していた頃の女王だ。

皮肉屋のレイ・デイヴィスがどんなつもりで歌っているのか知らないが、わたしは変に深読みはせず、古き良きイギリス人の想いが肯定的に描かれているものと捉えている。

B1「シャングリ・ラ」も素晴らしいし、独特の浮遊感のあるA4「ドライヴィン」、感動的なB4「若くて純真な時代」など、いつもながら、レイ・デイヴィスらしい泣きメロと耳にのこるフックが満載の名盤である。

それでも、あのカウンターカルチャーの時代に、若いロックバンドが「古き良きイギリスへの郷愁」なんかを歌っていたらやっぱり売れないのかな。
わたしは全然いいと思うのだけど。

この時代のキンクスのコンセプトアルバムはすべて充実した内容の名盤だ。
なぜ売れなかったのか、なぜビートルズやザ・フーと同じくらい評価されなかったのか、わたしにはまったく謎でしかない。

↓ 本作の顔とも言える、オープニングを飾る名曲「ヴィクトリア」。

The Kinks – Victoria (Official Audio)

↓ こちらもシングル・カットされたもののまったく売れなかった「シャングリ・ラ」。

The Kinks – Shangri La (Official Audio)

(Goro)