ザ・ドアーズは、60年代アメリカのロックバンドでは、商業的にも最も成功したバンドだ。
それにしても、よくこんなダークなロックが売れたものだ。
わたしにとってドアーズと言ったら、史上初めての闇属性のロックバンドであり、文学と音楽の交配による突然変異的に生まれた、背徳的で畸形的なロックである。
サーカス小屋のように華やかでポップだが、見世物小屋のようにダークで不気味でもある、オリジナリティ溢れる名曲をドアーズは数多く残した。
ヴォーカルのジム・モリソンは、徹底して性的な肉体と詩的な思索を備え、原始の獣のような声で雌を支配する王のようでもある。彼は、今に至るロックスターの原型となった。
1967年1月のレコード・デビューから、1971年7月にジム・モリソンがアパートの浴室で遺体で発見されるまでの期間は、たったの4年半に過ぎなかった。その間に彼らは6枚のアルバムを残した。ジム・モリソンの死後もドアーズは続けられ、2枚のアルバムを発表したが、商業的な成功は得られず、1972年に正式に解散した。
ここではそんなザ・ドアーズの、はじめて聴く人にもお薦め出来る、わたしが愛する名曲ベストテンを選んでみました。
Take it as it Comes(1967)
1stアルバム『ハートに火をつけて』収録曲。
「ハートに火をつけて」と同系列の、シンプルでキャッチーな曲だ。シングルカットはされていないし、なぜかあまり有名でもないが、わたしは昔からこの曲が好きだ。
Love Me Two Times(1967)
ドアーズの4枚目のシングルで、全米25位。イントロのギターのフレーズが印象的な、ドアーズ流の絶倫系ブルースだ。
「おれはしばらく戻らないから、2回はやっとこうぜ」と歌う。
ジム・モリソンの歌い方がまたエロカッコいい。こんふうに歌えるのは彼しかいないだろう。あのルックスでこんな風に言われたら、2回どころじゃ済まないのではないか。
The End (1967)
1stアルバムのラストを締めくくる、ドアーズのダークサイドを代表する曲。「父さん、あんたを殺したい。母さん、あんたとヤリたい」と歌う、世にもおぞましい曲だ。
決して積極的に聴きたくなる曲でもないが、ロビー・クリーガーによる催眠的なギター、そして全体を貫く緊張、暴発する狂乱と、演劇的な要素も含んだ、それまでのロックには無いことだらけの画期的な楽曲だった。
Hello, I Love You(1968)
ドアーズの3rdアルバム『太陽を待ちながら』からのシングルで、「ハートに火をつけて」以来の2度目の全米1位を記録した大ヒット曲。このあたりからドアーズはしばらくの間、ポップ路線のほうに寄っていく。
キンクスの「オール・オブ・ザ・ナイト」に似ている、盗作だ、と騒がれたという。
まあ、確かに似ているけれども。
Waiting for the Sun (1970)
5thアルバム『モリソン・ホテル』収録曲。
3rdアルバム『太陽を待ちながら』の制作時に書かれたものの完成に至らず、2年後にようやく完成したらしい。アルバム中では最もキャッチーで強い印象が残る曲だ。
L.A.Woman(1971)
ベースがいないという短所をキーボードなどで補い、それが結果的にドアーズの独特のサウンドになっていたのだが、ついに6枚目のアルバム『L.A.ウーマン』でドアーズはベーシストを迎えた。それによって、なんとなくフワフワとしたところのあったドアーズサウンドが、ビシッと締まったサウンドになっている。
この「L.A.ウーマン」はブルース・ロック的なナンバーだが、おそらくドアーズの楽曲では最もテンポが速く、グルーヴ感もある、ドアーズ流ロックンロールと言えるかもしれない。
Roadhouse Blues(1970)
5thアルバム『モリソン・ホテル』のオープニングを飾る曲。
前年のシングル、「ハロー、アイ・ラプ・ユー」「タッチ・ミー」でややポップ路線に寄っていったが、再び野蛮なエネルギーに満ち溢れたドアーズが還ってきた印象だ。
ドアーズというとキーボードの印象が強いが、この曲ではハードなギターが前面に出ていて、これがまたカッコいい。ジム・モリソンのワイルドなヴォーカルも絶好調だ。
People are Strange(1967)
フェリーニの映画に出てくる見世物小屋の人々のようなアルバム・ジャケットが印象的な2ndアルバム『まぼろしの世界』からのシングル・カットで、全米12位のヒットとなった。
ノスタルジックでメロディアスなフォーク・ソングのような親しみやすさもあれば、サイケデリックな香りも漂う不思議な魅力の曲だ。
Break on Through (To the Other Side)(1967)
ドアーズのデビュー・シングル。ジャズを思わせる不穏なイントロで始まるこの曲は「向こう側へ突き抜けろ!」と歌うドラッグ・ソングであり、彼らの突き抜けた音楽性を象徴する曲でもある。
当時はまったくヒットしなかったようだが、わたしはドアーズでいちばん最初に好きになった曲だった。
ただし、夜にしか聴けなかった。こんなアブないものは、昼間っから聴くものではないのだ。
Light my fire
ドアーズの2枚目のシングルで、全米チャート1位の大ヒットを記録した、彼らのブレイク作であり、代表曲である。
オリジナルも間奏が3分以上も続くが、下のライヴ動画はさらに長くなっている。最後は野獣のようなジム・モリソンの絶叫で締めくくられる、全米1位のヒットソングにしてはやはり異様な曲であることは間違いない。
これから初めてドアーズを聴くという方には、ベスト盤よりも、まずは1stアルバム『ハートに火をつけて』から聴くことをお薦めしたい。
名曲揃いであることはもちろん、ロックの可能性を、サウンド面でも世界観の面でも一気に押し広げた画期的なアルバムだった。
もしもこのアルバムが無かったら、ロックはもっとつまらないものになっていたと、わたしは断言できる。
(Goro)