⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
The Clash
“London Calling” (1979)
まさかあの無教養な労働者階級のチンピラみたいな連中ばかりだったパンク・バンドのひとつが、様々な音楽スタイルを吸収・消化しながら、オリジナリティ溢れる斬新な曲を書くようになり、これほどバラエティに富んだ、完成度の高いアルバムを作ることになるとは誰も思わなかったに違いない。
わたしも初めて聴いたときは、これが『白い暴動』と同じバンドだとしたら、いったいなにがどうなってクラッシュがこんな凄いことになったんだ!と興奮でわけのわからない状態になったものだった。
ザ・クラッシュの3rdアルバム『ロンドン・コーリング』はLP2枚組19曲の収録で、イギリスでは1979年12月に発売され、アメリカでは1980年1月に発売された。
伝統的に2枚組のロック・アルバムというと、実験的な楽曲があったり、アーティストの別の一面を見るような意外な楽曲や、普通ならアルバムに収録されないような粗けずりな曲だったりという、良い意味では音楽性の幅が広いと言えるけれども、悪い言い方をすれば散漫でゴチャついた印象になりがちだ。
しかし『ロンドン・コーリング』はそんな2枚組アルバムの概念を超えて、捨て曲も遊びもまったくない、驚異的な楽曲の充実と完成度を誇る、史上最強の2枚組アルバムとなった。
エルヴィスのあの聖なる1stをパクったジャケも、エルヴィス登場以来の最高のロック・アルバムだという自信の現れなのかもしれない。もはや世界を制した興奮で頭に血がのぼった連中しか思いつかないようなことだ。それでも実際に。エルヴィスの1stよりも有名なアルバムになってしまったのだから大変なものだ。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 ロンドン・コーリング
2 新型キャディラック
3 ジミー・ジャズ
4 ヘイトフル
5 しくじるなよ、ルーディ
SIDE B
1 スペイン戦争
2 ニューヨーク42番街
3 ロスト・イン・ザ・スーパーマーケット
4 クランプダウン
5 ブリクストンの銃
SIDE C
1 ロンゲム・ボヨ
2 死か栄光か
3 コカ・コーラ
4 いかさまカード師
SIDE D
1 ラヴァーズ・ロック
2 四人の騎士
3 アイム・ノット・ダウン
4 リヴォリューション・ロック
5 トレイン・イン・べイン
50年代のロカビリーから60年代のポップス、ジャズ、スカ、レゲエ、ラテン、ファンク、ハード・ロックなど様々な要素を取り入れ、それでいて統一感もある。パンクの精神性は保ちつつ、恐れることなく自由に音楽性を拡張し、パンクの限界、いやロックの限界を突破した、歴史的傑作である。70年代ロックの幕を下ろし、80年代ロックの幕開けを飾るのにこれほどふさわしいアルバムもないだろう。
A1「ロンドン・コーリング」は全英シングルチャート11位とキャリア最高位まで上昇し、アルバムも全英9位、全米27位と、過去最高の商業的成功も収めた。アメリカではD5「トレイン・イン・べイン」がシングル・カットされ、全米23位まで上昇した。
わたしが特に好きな曲を挙げると、A5「しくじるなよ、ルーディ」、B1「スペイン戦争」、C1「ロンゲム・ボヨ」、C2「死か栄光か」、D4「リヴォリューション・ロック」などなど、挙げ始めたらキリがないほどだが、なにしろピストルズの『勝手にしやがれ』と本作は、パンクのアルバムではいちばんよく聴いたことだけは間違いないと思う。
パンク・ムーヴメントによって既存のロックは焼き尽くされ、そしてパンク・ロック自体も燃え尽き、焼け野原になったロック・シーンに新たな扉を開き、眩しいほどの希望の光を見せてくれた大名盤である。
↓ 全英11位のヒットとなり、バンドの代表曲となったタイトル曲「ロンドン・コーリング」。
↓ 全米23位と、バンドにとって初の全米チャート入りを果たした「トレイン・イン・ベイン」。
(Goro)
コメント
ロックって、もう何度も「死んで」いますが、ロンドン・コーリングのような王道の、本質を突いた作品はきっともう出てこないんでしょうね。強いていえばおそらくオアシスが最後だったんだろうと思います(英国でのハナシ)。オアシスでさえメッセージ性みたいなものは希薄でしたが。
死んだと言えば、自分には一生アタマの上がらない存在の二人の英国人がいて、その内の一人が年上のリアルパンク世代のため、ジョー・ストラマーが亡くなった時は泣きそうな声で英国から電話をかけてきました。そしてその時に「お前、クラッシュ好きだっけ?」というので「イエス」と答えた翌月に、彼から、雑誌や中古レコード屋の壁面に高値で飾られているような、オリジナルの7インチシングル盤が20数枚送られてきたのです。「オレはもういいから、これはお前が引き継げ」というメッセージと共に。あ、数枚の駄作も含まれていましたが(笑)。
それにしても、まことに英国人らしい振る舞いで、かつ本物のパンク魂を感じることが出来たのと同時に、自身も50代中盤に差し掛かり、今はこれを次は誰に引き継ごうかと思案中デス。
アイアイ♪さん、いつもありがとうございます!
それはすごい贈り物ですね。
リアルパンク英国人がそれをどんな想いで送ったのかはわかりませんが、「次へ引き継ぐ」相手に指名したアイアイ♪さんへの想いはこの文面からもなんとなく伝わってくるような気がします。
かく言うわたしも何年か前、東京に住んでいる娘が帰省したおりに、「レコードプレーヤー買ったからなんかレコードちょうだい」と言われて、考える間もなく「全部あげるよ。レコードもCDも全部」と答えたことを憶えています。
そのときはその中から数枚持ち帰っただけでしたが、今わたしの家にあるレコードやCDはすべて所有権は娘に渡っています(笑)
売れば高値で売れるようなものもあるでしょうが、血のつながった者にそれを譲るというのは惜しくもなんともないものだなあ、とあらためて思いますね。
きっとほとんど聴きはしないだろうけれども、それを彼女が所有しているという事実があるだけでも、なんだか嬉しいものです。