ザ・バーズ/ミスター・タンブリンマン (1965)【’60s Rock Masterpiece】

The Byrds – Mr. Tambourine Man / I Knew I'd Want You (1965, Vinyl) - Discogs

【60年代ロックの名曲】
The Byrds
Mr. Tambourine Man (1965)

その後のフォーク・ロック・サウンドの原型を創造した、ロック史上の最重要曲のひとつだ。
ザ・バーズのデビュー・シングルとして発売され、全米・全英ともに1位になった。

いったい誰のアイデアなのか、当時よくこんな斬新で美しいサウンドをつくったものだと、今聴いても感心する。

12弦ギターによる一度聴いたら忘れられないキラめくようなイントロ、キャッチーで美しいコーラス、そしてロジャー・マッギンの声、そのすべてが完璧で、一度聴いただけでどハマりしたものである。

この「ミスター・タンブリンマン」には奇跡のような空気が真空パックされている。
奇跡のような空気というのは、アメリカン・ロックが誕生した瞬間の空気のことだ。

1965年1月15日、ニューヨークのスタジオに、この曲を録音するために集まったまだ無名の若者たち。

じゃあとりあえずやってみてよ、とガラスの向こうのブースから指示がある。
ビートルズを真似たマッシュルーム・カットの若者が十二弦ギターのイントロを弾くと、おっ、という感じでディレクターや録音技師たちが顔を上げる。
ベースが入り、歌が入り、曲が進むにつれ、その音楽の響きの新鮮さに、その場に立ち会った人々はこれまで感じたことのない高揚感を感じる。
その音楽には時代の空気にぴったりのリアリティがあり、サウンドはシンプルながら美しく、奇跡のようにキラめいている。
スタジオの外にいた同業者や、見学の女の子たちも、その新しい響きを聴きつけて次第に集まってきた。ガラス越しに、音楽に合わせて体を揺らしている女の子たちや、聴いたこともない新鮮なサウンドに口をぽかんと開けて聴き入っているバンドマンたちの姿が見える。
わずか2分半のその曲が終わる頃にはスタジオは興奮に包まれている。
演奏しているバンドも、その瞬間に立ち会った人々も、その時点ではまだ知る由もないが、そのロック・ミュージックのスタイルは、その後ほとんど永遠のように聴き継がれる。
アメリカ合衆国で、そして世界中の国々で、若者たちを夢中にさせていくのだ。

と、そんなことがあったかどうかは知らないが、わたしは「ミスター・タンブリンマン」を聴いているとそんなことを想像してしまうのだ。
この2分29秒には、音楽といっしょにそんな奇跡のような空気が真空パックされている気がしてしまう。

この曲の原作者のボブ・ディランには最大の敬意を払いつつも、バーズのバージョンは圧倒的に素晴らしい。
原曲は5分以上もある長い曲だけど、こっちはほぼ1コーラスしかないので、2分くらいであっという間に終わってしまうのもまた良い。

わたしはこの曲が収録されたファースト・アルバムも聴いてその素晴らしさにさらに感動し、バーズのファンになり、そして当然次から次へと全アルバムを聴くことになったわけだった。
60年代アメリカで、わたしがいちばん好きなバンドである。

The Byrds "Mr. Tambourine Man" on The Ed Sullivan Show

(Goro)