ザ・バーズ『ミスター・タンブリン・マン』(1965)【最強ロック名盤500】#92

Mr. Tambourine Man -Remas

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#92
The Byrds
“Mr. Tambourine Man” (1965)

米ロサンゼルスのバンド、ザ・バーズが1965年6月にリリースした1stアルバムだ。

それは、ビートルズの映画『ハード・デイズ・ナイト』に影響を受けたロジャー・マッギンが12弦のリッケンバッカーを手に取ったことから始まったのだ。

歴史上初めて、イギリスのロックバンドに影響を受けた、アメリカのロックバンドが誕生した瞬間だった。彼らはイギリスの最先端、ビートルズと、アメリカのヒーロー、ボブ・ディランを融合した音楽を創造することになる。

彼らの独特ハーモニーと透明感のあるサウンドがどういうアイデアや試行錯誤を辿って作り出されたのかはわからない。
現代の耳で聴けば、とてもシンプルで、とくに変わったことをやろうとしてるようには聴こえないだろう。それはこのスタイルが広く浸透したからで、それ以前に彼らのようなサウンドを作り出したバンドはいなかった。

そしてボブ・ディランやピート・シーガーなどのフォーク・ソングのカバーや、彼らに影響を受けたオリジナル曲などは、社会問題や哲学的思索などまで歌詞に盛り込まれたことで、ブリティッシュ・ビートよりもさらに時代の先を行くものだった。

そんないわゆる「フォーク・ロック」と呼ばれた彼らの音楽は、アメリカン・ロックの礎となった。

わたしはバーズの音楽が大好きだ。
今は休日の朝で、窓を開けて、本アルバムをなかなかの音量で聴きながらこれを書いている。

全12曲のうち、カバーが7曲、オリジナルが5曲で、オリジナルはジーン・クラークが中心となって書いている。カッコ内はカバー元のアーティストだ。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 ミスター・タンブリン・マン(ボブ・ディラン)
2 すっきりしたぜ
3 スパニッシュ・ハーレム・インシデント(ボブ・ディラン)
4 もう泣かないで
5 もう君はいない
6 リムニーのベル(ピート・シーガー)

SIDE B

1 オール・アイ・リアリー・ウォント(ボブ・ディラン)
2 君はボクのもの
3 イッツ・ノー・ユース
4 自信をもって(ジャッキー・デシャノン)
5 自由の鐘(ボブ・ディラン)
6 また会いましょう(ヴェラ・リン)

タイトル曲のA1はバーズの代表曲であり、そのキラめくような美しいサウンドにはアメリカで生まれた独創的なロック、「フォーク・ロック」誕生の瞬間が真空パックされているような、今でも新鮮な感動を覚える。

「ミスター・タンブリンマン」の原曲は、1965年3月に発表されたボブ・ディランのアルバム『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』に収録されている。アコースティック・ギターとピアノの伴奏だけの一見地味な曲だ。

驚くべきことに、バーズの画期的なカバー・バージョンは、そのディランのオリジナル発表のわずか3週間後にシングルとして発売されている。
そして全米・全英1位となり、その1カ月後には同名タイトルのデビュー・アルバムが発売される。
このあたりは、この時代のロックの進化がいかに猛烈なスピードであったかを物語るものだろう。

本作には他にもボブ・ディランのカバーが3曲ある。
本作以外でもバーズはディランの初期のフォークスタイルの楽曲を十数曲、バンド・アレンジにしてカバーした。

わたしはボブ・ディランを、バーズを聴くずっと以前から聴いていたにもかかわらず、ディラン作品をバーズのカバーで聴いて「あれっ、この曲ってこんな良い曲だったっけ」と思い、あわててディランの原曲を聴きなおしたものだった。
今までさんざん聴いてたくせに、こんなに良い曲だったとはちっとも気付かなかったと、その自分の聴きかたのいい加減さが恥ずかしくなったりもしたものだ。

ディランはやたらと難しい歌詞のことばかりが取り上げられがちだけど、実は彼は素晴らしいメロディ・メーカーでもあるんだなと、バーズのおかげで遅まきながら気づいたものだった。

↓ 画期的なフォーク・ロック・サウンドで、ボブ・ディラン本人にも影響を与えることになった「ミスター・タンブリン・マン」。

The Byrds "Mr. Tambourine Man" on The Ed Sullivan Show

↓ こちらもボブ・ディランのカバーで全英4位のヒットとなった「オール・アイ・リアリー・ウォント」。

All I Really Want To Do

(Goro)