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The Beatles
“Rubber Soul” (1965)
前作『ヘルプ!』から4ヶ月後の、1965年12月にリリースされた通算6枚目のアルバム。
デビューからここまで、3年の間に6枚のアルバムをリリースしてきた彼らには、お疲れさまという他ない。きっと現代のブラック企業も真っ青の過重労働であったに違いない。
しかし本作ではデビュー以来初めて、1ヶ月というまとまった制作期間を取り、ゆっくりと腰を落ち着け、マリファナなんかも吸いながら、レコーディングに没頭できたアルバムであるらしい。
1ヶ月の制作期間でも現代の感覚では短い方だと思うけれども、1stアルバムは1日、2ndは飛び飛びの6日などの突貫で制作してきた彼らにとっては充分すぎる長さであっただろう。
なので、これまでの作品とはガラリと雰囲気が変わった。ずいぶん落ち着いた雰囲気になったものだ。初期のビートルズに比べるとスピード感はゆるくなり、闇雲な勢いはなくなった。
そう言うと悪口みたいに聞こえるかもしれないが、要は作風が変わったということである。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 ドライヴ・マイ・カー
2 ノルウェーの森
3 ユー・ウォント・シー・ミー
4 ひとりぼっちのあいつ
5 嘘つき女
6 愛のことば
7 ミッシェル
SIDE B
1 消えた恋
2 ガール
3 君はいずこへ
4 イン・マイ・ライフ
5 ウェイト
6 恋をするなら
7 浮気娘
それまでの5作に比べると、落ち着き,成長を遂げた大人の作品という感じだ。アレンジ面でも工夫を凝らし、これまでのブリティッシュ・ビート・サウンドとは一線を画している。
ボブ・ディランやバーズの影響を受けてフォーク・ロック的なアレンジやアコースティック・サウンドを取り入れたり、歌詞も愛だの恋だのダンスだのとは一味違うものを書いたり、この1965年に起こったロックの新たな展開に、彼らもまた乗り遅れまいとしたのだろう。
楽曲もクオリティが高く、名盤であることは間違いない。
A2「ノルウェイの森」やB4「イン・マイ・ライフ」は斬新なスタイルの名曲だし、A3「ユー・ウォント・シー・ミー」はいかにもポールらしい傑作だ。
しかし一方で、なんだか気持ちの悪いA7「ミッシェル」やB2「ガール」なんかは、わたしは正直あんまり好きになれない。A4「ひとりぼっちのあいつ」なんかも正直ちょっと微妙だ。
まあたぶんだけれども、当時ビートルズに熱狂していた少女たちの何割かは「えー、前のほうが元気でかわいくて良かったー」と困惑したのではないかと想像する。
わたしも実はそんな少女のひとりで、『ヘルプ!』や『フォー・セール』のほうが好きだったりする。
それはきっと、しょんべん臭い少女趣味なのだろうが、しかし初期のビートルズのあのはっちゃけた、無垢な輝きで眩しいほどの楽曲の魅力は、どんなバンドにもないものだった。
しかし人は成長し、変わるものだ。
楽曲も役割も、4人の個性がはっきりと分かれてきた。
ここからはビートルズの後半戦で、50年代アメリカのリトル・リチャードやバディ・ホリーのロックンロールに憧れ、手本にしていた時代は終わり、自分たちの世代のオリジナルなロックを創造するステージに移行したのだ。
ここからはさらに実験的になり、迷走したり暴走したりしながら、過去のロックンロールの枠を壊して、未知の世界へとロックシーンを牽引していく。
↓ ジョージ・ハリスンによるシタールの音色が印象的な「ノルウェイの森」。
↓ ジョン・レノンが「ぼくが初めて意識して自分の人生について歌詞を書いた曲」と語った「イン・マイ・ライフ」。
(Goro)