スティーヴィー・ワンダー『キー・オブ・ライフ』(1976)【最強ロック名盤500】#229

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【最強ロック名盤500】#229
Stevie Wonder
“Songs in the Key of Life” (1976)

ずっと、スティーヴィー・ワンダーがわからなかった。

若い頃にソウルにどっぷりハマった時期もあったし、70年代前半の「ニュー・ソウル」の代表格として知られた三人のうち、マーヴィン・ゲイとカーティス・メイフィールドは気に入ってよく聴いたけれども、なぜかもう一人のスティーヴィー・ワンダーだけは、どれを聴いてもピンと来なかった。この「名盤500」の進行中にも彼の代表作を何枚かあらためて聴いてみたりしたけれども、やっぱりピンとこなくてスルーしてきたものだ。

しかし、今年に入ってこの『キー・オブ・ライフ』を聴いたときに、何の加減か、わたしの中の何かのフタがパカッと開来でもしたかのように、スルスルッと入ってきて、心にタプタプと満ちるものがあったのである。それは早朝のこと、わたしは勤め先の工場に着いて、中二階の狭い通路を歩きながらイヤホンで聴いたのだけれども、「あらっ」と声を上げて立ち止まり、「いいな」と呟いてまた歩き出したのだった。

発売当時、LP2枚と4曲入りEPというボリュームで発売されたトータル1時間45分もある本作はそれ以来、ここ最近のわたしにとっての、休日の午前中に聴く楽しみともなった。

いったいわたしの中の何のフタが開いたのかわからないが、何時間でも聴いていられるほど耳に心地よく、身体に馴染み、幸福感を満たすのである。

まだスティーヴィー・ワンダー初心者でもあり、本作の何がそんなに刺さったのかうまく言えないのだけれども、アーティストの創作意欲がピークに達したときに生まれる2枚組大作特有のエネルギッシュな空気の横溢や、バラエティに富んだ楽曲、実験性豊かなゴチャついた面白さを感じるのは確かで、その強力なパワーがわたしの中のどこかの頑固なフタをこじ開けたのだろうという気はする。

本作はスティーヴィー・ワンダーの18枚目のオリジナル・アルバムとして1976年9月にリリースされ、全米チャートで13週連続1位となり、500万枚以上を売り上げる大ヒットとなった。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 ある愛の伝説
2 神とお話
3 ヴィレッジ・ゲットー・ランド
4 負傷(コンチュージョン)
5 愛するデューク

SIDE B

1 回想
2 孤独という名の恋人
3 楽園の彼方へ
4 今はひとりぼっち
5 出逢いと別れの間に

SIDE C

1 可愛いアイシャ
2 涙のかたすみで
3 ブラック・マン

SIDE D

1 歌を唄えば
2 イフ・イッツ・マジック
3 永遠の誓い
4 アナザー・スター

EP

1 土星
2 エボニー・アイズ
3 嘘と偽りの日々
4 イージー・ゴーイン・イヴニング

シングル・カットされたA5「愛するデューク」、B1「回想」はどちらも全米1位の大ヒットとなった。C1「可愛いアイシャ」は米国以外の国でシングル・カットされ、日本でもCMに使用されるなど、人気曲のひとつとなっている。

スティーヴィー・ワンダーが書き溜めていた曲は、本作に取り掛かった頃にはすでに200曲以上のストックがあり、しかもアルバム制作中にも次から次へと新曲が生まれ、結果的に2枚組LPから溢れ、EP盤までつけることになったという。この天才の創造の泉が湧きに湧いた時期だったのだろう。

本作をスティーヴィー・ワンダーの最高傑作に挙げる人は多く、スティーヴィーも本作を自身の代表作に挙げ「すべてのアルバムの中で一番『幸せ』なんだ」と語っている。

本作にはジャズ的な要素も多くある。なのにジャズが苦手なわたしにアレルギー反応がまったく出ないのは自分でも不思議に思う。

一度ハマってしまうと、今までなぜピンとこなかったのか不思議なほどだが、まあ今まで閉じてたフタが開いたときというのはだいたいそんなものだ。

嬉しいことこのうえないが、さらに過去作もあらためて聴き込めば、これまでスルーしてきてしまった傑作群もそのうちまたこの「名盤500」に遅ればせながら捩じ込むことになるのかもしれない。

↓ 全米1位の大ヒットとなった「愛するデューク」。スウィング・ジャズの帝王、デューク・エリントンに捧げられた曲だ。

↓ 米国ではシングル・カットされなかったが、ラジオのDJたちが好んでオンエアし、代表曲として広く知られることになった「可愛いアイシャ」。

(Goro)

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