「シューゲイザー」とは、「靴を見つめる人」という意味だ。
あるイギリスの音楽誌の記者が、ムースというバンドが床に貼られた歌詞を見ながら歌っている様子をそう表現したのが始まりだったそうだ。
だから、音楽的な共通性はあるようでなかったり、ないようであったり、人によってそのイメージや解釈に相違があったりもする。
当時のわたしの「シューゲイザー」の理解は、1980年代末頃から現れた、歪んだギターを豪快に鳴らし、フィードバックノイズを盛大に放射しながら、聴こえるか聴こえないかぐらいの声で、シンプルでドリーミィなメロディを歌うイギリスの若者のバンドのことだった。
彼らはいわゆるロックスターとは真逆の、顔も名前も覚えられないぐらい地味で大人しそうな若者たちであり、派手なステージ・パフォーマンスもしなかった。
しかし彼らの、必要以上にうるさく、不快なノイズにまみれたギター・サウンドは、その昔にロックが持っていた劇薬的な刺激を取り戻したかのように気持ちよく、興奮させられたものだった。
ここではそんなシューゲイザーたちを聴いてみたいという方たちのために、当時の代表格を10組10曲に厳選して選んでみました。
事の始まりから、その進化と変容の道程を辿りながら、紹介していきたいと思います。
アップサイド・ダウン (1984)
The Jesus And Mary Chain – Upside Down
これが最初のビッグ・バンだ。
この、イギリスのリード兄弟を中心としたバンドのデビュー・シングル「アップサイド・ダウン」は、その後のロックの流れを変えることになった。
この異常に完成度の低い、耳をつんざくフィードバックノイズの嵐にまみれた曲は、当時のわれわれに衝撃を与えた。そして、ここから始まる未来のロックをもっと聴いてみたいという気分にさせた。ジーザス&メリー・チェインは言わば、シューゲイザーの父と言える。
その父の影響を受けた子供たちは、安物のエレキギターを抱え、アンプのヴォリュームを目いっぱい上げ、ディストーションをかけて、力まかせに弦をかき鳴らした。
やがてフィードバック・ノイズをコントロールする術を少しずつ身につけながら、メロディとコーラスを融合させ、シューゲイザーと呼ばれることになる刺激的なロック・ミュージックを創造していったのだ。
ローレライ (1984)
Cocteau Twins – Lorelei
ジーザス&メリー・チェインがシューゲイザーの父なら、コクトー・ツインズはシューゲイザーの母と言えるだろう。
彼らはギターのリヴァーブとディレイを多用するなどして、煌めき、はじけるように音が広がり、浮遊感のある幻想的な音響世界を創り出した。
歌詞は無いに等しい。ヴォーカリストのエリザベスは即興で歌っていて、意味のある言葉だけではなく、実在しない言葉も含まれている。声もまた楽器のひとつとして、この夢幻の音響世界の一部に過ぎないのだ。
ライク・ア・デイドリーム (1990)
Ride – Like A Daydream
1990年にデビューしたイギリスのバンド、ライドの2ndシングル。彼らの代表曲だ。
特に中身の無い、ほぼ勢いだけの曲である。でも当時のわれわれは、この閃光のように目映い輝きと、一瞬で散ってしまう青春の儚さのようなこの曲に、胸を貫かれた。
初めてギターを手にした子供のように夢中でかき鳴らす轟音ギターと、なんとなくポジティヴで美しく聴こえる世にもシンプルな歌メロ。それ以外にはなにもないところが潔くて、感動的ですらあった。
スウィートネス・アンド・ライト(1990)
Lush – Sweetness and Light
ヴォーカル&ギターのフロント2人が女子で、ベースとドラムが男子という、時代の流れを感じさせる女性上位バンドだ。この曲は1990年10月発表の彼らの2ndシングル。
ラッシュは89年に4ADからデビューしたが、レーベルの先輩コクトー・ツインズのメンバーによるプロデュースのせいもあって、ファンタジックででドリーミィな浮遊感漂うサウンドをそのまま継承した形になった。
レイヴ・ダウン(1990)
Swervedriver – Rave Down
英オックスフォード出身の4人組の、1990年11月にクリエイションからリリースされた2ndEPだ。
シューゲイザーはマイブラを元祖として、彼らのドリーミィな部分を受け継いだ一派と、ワイルドな部分を受け継いだ一派に分かれる。このスワーヴドライヴァーはそのワイルドなほうの一派と言えるだろう。
フォーリング・ダウン(1991)
Chapterhouse – Falling Down
90年にデビューした英国レディング出身のバンドの、3rdシングル。
ギターのリフが印象的なこの曲は当時よく聴いたものだ。ダンサンブルなリズムは、当時の流行だったマンチェスター・ムーヴメントの影響が窺える。2枚のアルバムを残して、96年に解散した。
キャッチ・ザ・ブリーズ(1991)
Slowdive – Catch The Breeze
1990年デビューの英国イングランドの女性ヴォーカルバンドの1stシングルで、唯一チャート入りを果たした曲(全英52位)。
ラッシュよりもっとドリーミィ感が強く、わりとこのあたりを王道シューゲイザーと考えるファンもいるようだ。
既成事実(1992)
Curve – Fait Accompli
90年代初頭のイギリスには、ハウス系ロックと、シューゲイザー的轟音ロックが大流行だったが、このカーヴは、それを両方合わせたようないいとこ取りだった。
また、当時は女子ヴォーカルも流行っていたので、その波にも乗り、1stアルバム『二重人格』は全英11位、このシングルも全英22位まで上がった。
大人たちが練りに練って作ったという感じで、完成度が高い。
オンリー・シャロウ(1991)
My Bloody Valentine – Only Shallow
シューゲイザーの究極の完成形とも言える、マイブラの名盤『ラヴレス』のオープニング・トラック。
ノイズの轟音と洪水が、まるですべてをなぎ倒し破壊する熱風のようだ。轟音ノイズの向こうから、かすかに聴こえてくる小っちゃな妖精たちが歌うようなメロディが美しい。
シューゲイザーはこのアルバムで極まり、以降これを超えるものは出現しなかった。
Lucky(1997)
シューゲイザーのスタイルを継承した日本のバンドの代表格が、この青森県出身の4人組、スーパーカーだった。
デーヴ・スペクターがくだらないジョークを言いながら紹介しているけれども、これが公式のMVである。
シューゲイザー入門として、アルバムを1枚だけ選ぶとしたら、もちろんマイ・ブラッティ・ヴァレンタインの『ラヴレス』だろう。
1989年頃から1992年ぐらいまでのほんの2~3年だけ輝いていた「シューゲイザー」と呼ばれたバンドたちは、一瞬の猛火のように激しく燃え上がり、儚く消え去っていった。
しかし、彼らのおかげで英国にエレキギター中心のロックが復権し、90年代ロックが大きな盛り上がりを見せたことは確かなのだ。
(Goro)

