1971年にデビューし、当初は親しみやすい音楽性と、高校を中退して底辺職を転々とする生活を送ってきた心情を吐露するリアリティあふれる歌詞が特長のフォーク・シンガーとして、吉田拓郎や井上陽水に次ぐ人気を誇った。
そして70年代後半になると、エネルギッシュな「都市」と移り変わる「時代」の中でもがきながらも生きていく人々を見つめる力強い詩とパワフルなサウンドのーによる、独創的なロックを確立した。
そんな、日本のロックを創造した一人と言っても過言ではない泉谷しげるが、10社ものレーベルを渡り歩きながら、それぞれにスタイルを変えながリリースした23枚のスタジオ・アルバムと11枚のライヴ盤から、ベストテンを選んでみたいと思います。
ちなみに上の似顔絵は、ベストアルバム『天災か人災か』のジャケットで、『二十世紀少年』などの作者で泉谷のファンでもある漫画家、浦沢直樹が描いたものだ。
※以下に選んだアルバムのジャケットはオリジナルのデザインと違うものがありますが、現在流通しているデザインのものを優先しました。
エレックレコード(1971~74に所属)からリリースされた泉谷のデビュー・アルバムで、ライヴ録音だ。オープニングの「白雪姫の毒リンゴ」こそスローテンポのシリアスなトーンで幕を開けるが、2曲目の「砂時計」からはお祭り騒ぎのどんちゃん騒ぎがはじまる。
デビュー前でまったくの無名ながら中目を集め、彼のライヴがいかにパワフルで楽しく、そして感動的だったかが伝わる、臨場感溢れるライヴ・アルバムだ。こんなライヴを見たら一瞬にしてファンになることは間違いないだろう。
曲も演奏も無茶苦茶に粗削りながら、人間味とリアルな時代感覚にあふれた新たなカリスマの登場を記録したデビュー盤だ。
下の「告白のブルース」は泉谷が初めて作ったという曲。偏見に満ちた女性蔑視の攻撃的な歌詞は、今の時代では決して生まれないだろう。
ビクター時代(1988~91)は吉田建、村上ポンタ秀一、仲井戸麗市、下山淳という豪華なメンバーのバンドLOSERと共演して5枚のアルバムを残し、泉谷史上最もパワフルでヘヴィなサウンドのロック時代となった。
これはこのメンバーによる最初のアルバム。「野性のバラッド」「長い友との始まりに」「果てしない欲望」などの名曲が収録され、80年代はニューウェイヴ風サウンドのアルバムが続いて戸惑い続けたファンにとっても、この泉谷の復活作に大いに喜んだ。
泉谷しげると吉田拓郎、井上陽水、小室等の4人でフォーライフ・レコードを設立したことは、既存のレコード業界の在り方に反旗を翻す、当時としては革命的な事件だった。
このライブ・アルバムはそのフォーライフが最初にリリースした記念すべきレコードとなった。
当時、フォークからロックへと移行しようとしていた過渡期の泉谷の集大成的な選曲になっていて、前半はフォーク系中心の、緊張感のあるクオリティの高い演奏でじっくり聴かせ、後半は一気に熱を帯びたロックサウンドとなり、ときに暴発するほどの盛り上がりを見せる様は圧巻だ。
また、スタジオ・アルバム未収録の「乱・乱・乱」「夜のかげろう」「コップいっぱいの話」の3曲はここでしか聴けない貴重な佳曲だ。
かの有名な泉谷しげるの代表曲「春夏秋冬」を収録した、2ndアルバムだ。バックの演奏は加藤和彦、高中正義、つのだひろが務めている。
「春夏秋冬」はこの後様々なバージョンで何度も録音されるが、加藤和彦のアレンジによるこのオリジナル・バージョンが、歌詞にふさわしい切実さや焦燥感が感じられてやはり圧倒的に良い。また、アルバムから半年後にシングルもリリースされるが、それはライヴ・バージョンだ。
他にもデビュー・シングルの「帰り道」「鏡の前のつぶやき」「黒いカバン」「街はぱれえど」などの名曲も収録されている。
4作目のアルバムで、音楽性が飛躍的に豊かになり、歌詞の成長も含めて泉谷の才能が開花した傑作だ。
代表曲「春のからっ風」収録。他に「国旗はためく下に」「個人的理由」などの名曲や「里帰り」「ひとりあるき」といった佳曲、「おー脳!」「老人革命の唄」の面白ソング、この時代に早くもレゲエの手法を取り入れた「君の便りは南風」など、聴きどころが多い。
フォーライフ設立後、初めてのスタジオ・アルバムとなった名盤。
前作の『黄金狂時代』はロック色の強いアルバムだったが、このアルバムはフォークのスタイルに一旦戻り、泉谷の最後のフォーク・アルバムとなった。
しかしただ昔のスタイルに戻ったわけではなく、ソングライティングは目覚ましい成長をみせ、特にオリジナリティあふれる歌詞の素晴らしさは泉谷が絶好調だったことを窺わせる。
「野良犬」「彼と彼女」「超人」「少年A」「家族」「行きずりの男」などの名曲が収録された、聴けば聴くほどに味わい深い傑作だ。
フォーライフからアサイラム・レコードに移籍すると、泉谷は完全にロックに転向する。アサイラムでは3枚のレコードしか残さなかったが、それは泉谷のキャリアの頂点とも言える素晴らしい内容だ。これはその2作目である。
前作『’80のバラッド』で画期的なオリジナリティあふれるロックのスタイルを創造したが、その続編とも言える本作は、前作と比肩する充実した内容の名盤だ。
あまりに素晴らしい「褐色のセールスマン」「俺の女」、そして「旅から帰る男たち」「風もないのに」など、全編通してクオリティの高い曲が並んでいる。
アサイラム・レコード移籍第1弾となった本作は、泉谷にとっても、そして日本のロックにとっても、画期的な名盤だ。
加藤和彦プロデュースによるサウンドと、力強くエッジの効いた言葉で、エネルギッシュな都市の姿とそこに生きる暴発寸前の人間をリアルに描き、オリジナリティあふれる本格的な日本語のロックを新たに誕生させたのだ。その代表曲がこのアルバムの白眉となる「翼なき野郎ども」「デトロイト・ポーカー」だろう。
他にも「裸の街」「波止場たちへ」「流れゆく君へ」などの佳曲も収録されている。
カッコいいイントロで始まる「眠れない夜」は、その後泉谷の永遠のテーマとなる、圧倒的な磁場を持つ「都市」とその中であがきながら生きる人間を歌った、泉谷流ロックの最初の1曲となった記念すべき名曲だ。
「眠れない夜」、そして「火の鳥」「Dのロック」といった名曲のバックを務めたバンド、イエローの演奏の素晴らしさも聴きものだ。
「遥かなる人」「摩天楼」「懐かしい人」「北の詩人」なども名曲だが、こちらはラストショウというバンドの演奏で、彼らもまた素晴らしいバンドだった。
アサイラム・レコードでの最後のリリースとなったこのアルバムは、当時確立した泉谷流ロックの集大成的アルバムと言えるだろう。
選曲もベスト・オブ・ベストなら、泉谷のコンディションも最高だ。いつもよりやや掠れ気味だがパワフルな声がよく出ている。バックを務める、吉田健率いるBANANAの熱を帯びた演奏は泉谷といった素晴らしい。
ライナーで泉谷自身が書いたように、まさに「ロックンロールが地鳴りする」ような、「翼なき野郎ども」「デトロイト・ポーカー」で始まるオープニングのその強烈さに圧倒され、「俺の女」「つなひき」「遥かなる人」でじっくりと感動的に聴かされ、そして後半に突入すると「摩天楼」「火の鳥」「眠れない夜」「褐色のセールスマン」と怒涛のロックンロールの連発にテンション爆上がり、もはや興奮状態である。
このアルバムは洋・邦合わせても、たぶんわたしにとって最も多く聴いたアルバムのはずだ。究極の泉谷しげるを体験できる名盤である。
(残念ながら動画はありませんでした)
以上、泉谷しげる【名盤ベストテン】でした。
次回は、泉谷しげる【名曲ベスト50】の予定です。乞うご期待。