ピーター・ガブリエル&ケイト・ブッシュ/ドント・ギヴ・アップ (1986)

Don't Give Up (Peter Gabriel and Kate Bush song) - Wikipedia

【コラボの快楽】
Peter Gabriel (ft. Kate Bush)
Don’t Give Up (1986)

ピーター・ガブリエルの5thアルバム『So』収録の、ケイト・ブッシュをft.した美しい曲。シングル・カットされ、全英9位のヒットになった。

MVではピーター・ガブリエルとケイト・ブッシュがずっと抱き合ったままという、デュエット曲としては密着度が史上1位のMVである。

ピーター・ガブリエルが歌う歌詞は、誇りも居場所も失い、「まさか自分の身に降りかかるなんて。こんな状況は耐えられない」と人生に絶望した男の言葉だ。

それに対してケイト・ブッシュが優しい友(または家族)の立場から「あきらめないで、まだ私たちがいる。あなたの居場所は必ずある。少し休むといいわ。あきらめないで、きっとうまくいくから」と慰める。

今あらためてこの曲を聴くと、わたしは数年前に、20年も務めた職を突然失った日のことを思い出す。

そもそも男なんて、仕事を取ったら何も残らないようなものだ。

わたしも、あまりにも生活のすべてを仕事に捧げ過ぎていた。しかも自発的に。その「すべて」を突然失い、さらに家族よりも長い時間を過ごしていた同僚たちとの絆もその瞬間に断ち切られた。わたしが毎日を生きていた世界がすべて夢だったみたいに思えて、おそろしいまでの徒労感と孤独が襲ったものだ。

なんだか、ものすごく長く続いていたテレビドラマを降板したような気分だった。ドラマはまだ続いていくけれども、わたしは役から解放されて現実に戻ってきたのだ。

でも、そうなってみてあらためて周囲を見渡してみると、ドラマではないにぎやかな現実があるし、周囲には温かく、優しく見守ってくれている家族や友人たちがいた。孤独でも絶望的でもなんでもなかったのだ。何もあきらめる必要なんてない。

まあ本音を言えば、孤独や絶望的な気持ちになったときには、こんなふうに美しいお姉さまにハグされて慰めてもらえるといちばんいいのだけれど。

っていう男の願望そのもののMVだと思う。

(Goro)