パティ・スミス『ホーセス』(1975)【最強ロック名盤500】#222

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【最強ロック名盤500】#222
Patti Smith
“Horses” (1975)

さあ、女王様の登場だ。

十代の頃から音楽や詩を愛し、ランボーやボブ・ディランのような詩人の恋人になりたくて、23歳のときにニュージャージーからニューヨークへと移り住んだパティ・スミスは、自らも詩を書き、朗読などの表現活動をするうち、バンドを組んで歌うようになる。

そして29歳になった1975年11月に本作でデビューする。プロデューサーは元ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルだ。

このアルバムを発火点として、70年代のパンク・ムーヴメントはまずニューヨークから始まった。

その型破りのヴォーカル・スタイルと激しいパフォーマンスによって彼女は「パンクの女王」と称されるようになる。

ただし、彼女の音楽はいわゆるセックス・ピストルズやラモーンズのようなシンプルなロックンロールとはまた違うものだ。

過激だが文学的な歌詞がむしろメインで、音楽はそれに合わせて変化に富み、激しい感情を表現する。

パティ・スミス以外にもテレヴィジョンやリチャード・ヘル、トーキング・ヘッズなど、「ニューヨーク・パンク」と括られるの一派にはアート志向や文学志向のイメージが強い。ニューヨーク・アンダーグラウンドの元祖である、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの影響も大きいのだろう。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 グローリア
2 レドンド・ビーチ
3 バードランド
4 フリー・マネー

SIDE B

1 キンバリー
2 ブレイク・イット・アップ
3 ランド
4 エレジー

A1「グロリア」はヴァン・モリソンが60年代に在籍した北アイルランドのバンド、ゼムの代表曲だ。ゼムのバージョンもカッコいいが、このパティ・スミスのバージョンは衝撃的だった。こんな歌い方をする女性シンガーを若き日のわたしは初めて聴いたのだった。バックの演奏もカッコいい。シビれた。

A4「フリー・マネー」は「グロリア」と並ぶアルバムのハイライトだ。「盗んだお金であなたにジェット機を買ってあげたい」と歌っている。パティ・スミスとバンドのギタリストだったレニー・ケイによって書かれた曲だ。

いまあらためて聴いてみると、パンクというよりむしろ、同じくニュージャージー州で育ったブルース・スプリングスティーンとの共通性を感じさせる。

当時のスプリングスティーンの歌詞によく出てくる「一生、何者にもなれそうもない閉塞した町から飛び出して、自分の人生を切り拓く」を地で行ったのが、まさにパティ・スミスだったのだ。この曲のドラマチックな展開、情熱的で切実な歌と響きもまた「明日なき暴走」や「涙のサンダーロード」を想い出させる。

パティ・スミスはパンクについてこう語っている。

「パンクって心のあり方なの。それはエキサイトしたり、新しい何かを発見したり、物事を見極めようとする力。特定の格好や音楽ではなく、心の枠組み、自由であることよ」

アルバム・ジャケットを撮影したのはパティ・スミスのルームメイトだった写真家のロバート・メイプルソープだ。ただし恋人ではない。彼は同性愛者だった。

わたしはこのアルバム・ジャケットは、ロック史上でも十指に数えられる名アートワークのひとつだと思う。

↓ ゼムが1964年に発表した曲だが、パティ・スミスのカバーによって広く知られることになった「グロリア」。

↓ パティ・スミス初期の代表曲「フリー・マネー」。

(Goro)

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