90年代ルイジアナの秘宝 〜ニュートラル・ミルク・ホテル『イン・ザ・エアロプレーン・オーバー・ザ・シー』(1998)【わたしが選ぶ!ロック名盤500】#372

B002PHVHFI
⭐️⭐️⭐️⭐️

【わたしが選ぶ!ロック名盤500】#372
Neutral Milk Hotel
“In The Aeroplane Over The Sea” (1988)

長年の経験から、謎のアーティストのヘンテコジャケットのアルバムというのは、99%の確率でイカれた変人たちによるイカれポンチなアルバムだが、1%の確率で驚くべき異才によるどえらい名盤だったりもする。

これはその、1%のほうのやつだ。

アコギをストロークでガシャガシャかき鳴らしながら、どこか切ない、フックのあるメロディを剛田ジャイアンのような大声で魂を振り絞るように歌う様は、アメリカでもイギリスでもなく、日本のフォーク・ロック、泉谷しげるやエレファント・カシマシや真心ブラザーズなんかをわたしに想起させた。

ニュートラル・ミルク・ホテルは米ルイジアナ州ラストンでヴォーカル&アコギのジェフ・マンガムを中心に結成された4人組のバンドだ。

Cult heroes: Neutral Milk Hotel – alt-rock enigmas who shied away from the spotlight | Folk music | The Guardian当時のニュートラル・ミルク・ホテル。左端がジェフ・マンガム。

4人組といっても普通の編成ではなく、ドラムとオルガンを担当するジェレミー・バーンズ、トランペットやトロンボーンを担当するスコット・スピレーン、歌うノコギリやバンジョーやアコーディオンを担当するジュリアン・コスターといった具合である。エレキギターとベースはいない。

ひとつ間違えばしっちゃかめっちゃかな面白バンドで終わってしまいそうな編成だけれども、ジェフ・マンガムの歌声とアコギの存在感が確固としていて、横でふざけようがくすぐられようが、何をされても動じないような強靭な音楽ができあがっている。

本作は1998年2月にインディ系レーベルからリリースされた、彼らの2ndアルバムである。

【オリジナルCD収録曲】

1 The King of Carrot Flowers, Pt. 1
2 The King of Carrot Flowers, PTS. 2-3
3 In the Aeroplane Over the Sea
4 Two-Headed Boy
5 The Fool
6 Holland, 1945
7 Communist Daughter
8 Oh Comely
9 Ghost
10 The Penny Arcade in California
11 Two-Headed Boy, Pt. 2

収録された楽曲は、ジェフがたまたま読んだアンネ・フランクの『アンネの日記』に深く打ちのめされたことをきっかけにその多くが書かれ、生と死、残酷な現実に対する感情が込められているという。

ジェフ・マンガムは次のように語っている。「僕は毎晩ベッドに入ると、タイムマシンを持っていて、時間と空間を自由に行き来してアンネ・フランクを救い出すことができる、という夢を見ていた。これって恥ずかしいことかな?」(音楽誌『Puncture』のインタビュー)

そのサウンドは、アコギの弾き語りを中心に据えながらも、歌うノコギリやアコーディオンやオルガン、トロンボーンなどを巧みにオカズとして用い、渾然一体となって、まるで移動サーカスや旅回り一座のような、極めて独創的でノスタルジックな世界を構築している。

アルバムは批評家から絶賛され、徐々にカルト的な人気を獲得したが、バンドの知名度が上がるにつれツアーも増えたことで、ジェフ・マンガムは精神状態が不安定になり、ツアーから逃げ出すようにして隠遁生活に入ってしまう。残されたメンバーたちも何も説明されないまま、1998年末までに活動休止に陥ってしまった。

ちなみにこの奇妙なジャケットの元になったのは、ジェフがジョージア州アセンズの古道具屋で見つけた、20世紀初頭のヨーロッパの絵葉書だという。海辺で遊ぶ人々を描いた絵葉書だったが、ジェフはデザイナーのクリス・ビルハイマーに「顔をタンバリンに差し替えてほしい」と頼んだという。理由はわからない。どこまでもシュールな人だと思う。

↓ 古き良き時代のポップスを思わせる、ノスタルジックで親しみやすい雰囲気のタイトル曲「In the Aeroplane Over the Sea」。歌うノコギリがまた良い効果をあげている。

↓ 激しく叩きつけるようなアコギのストロークと、ジェフの囁くような歌声から絶叫まで、ダイナミックな歌唱が特徴の弾き語り曲「Two-Headed Boy」。わたしはこれが一番好きかな。

(Goro)