ニール・ヤングは1966年にバッファロー・スプリングフィールドのギタリストとしてデビューして以来、もう59年もアーティストとしてのキャリアを重ねている。
スタジオ・アルバムだけで40作以上、ライヴやアーカイヴを合わせると80作を超える膨大なそのディスコグラフィーは、ファン歴40年のわたしでも全部は把握できていない。
ニールの作品群は傑作の森というより、玉石混交のジャングルみたいなものなので、いきなり迷い込んだりすると遭難する恐れもある。
ニール・ヤングには、ノスタルジックで美しいアコースティック系の曲から、火花のようなノイズをまき散らす激しいロックまで幅広い楽曲があり、ロック好きならその両方の代表曲を気に入ってもらえると思うけれども、好みに応じて、そのどちらかだけ聴くというのもまたアリだと思う。
以下はわたしが選んだ、ニール・ヤングの名曲ベストテンだ。
有名曲・代表曲ばかりなので、入門者の方にもお薦めだ。
まあわたしの嗜好なので、だいぶロック寄りに傾いてはいるけれども。
Cowgirl in the Sand (1969)
1969年リリースの『ニール・ヤング・ウィズ・クレイジー・ホース(Everybody Knows This Is Nowhere)』収録曲。ニール・ヤングとクレイジー・ホースが初めて共演したアルバムだ。
制作中にニールがインフルエンザに罹り、高熱を出しながらもなぜか次々に曲が生まれたという。確かに、熱に浮かされたようなテンションの歌メロが素晴らしい。
クレイジー・ホースのダニー・ウィットンとニールによる長い長いギターソロは、ニール・ヤングのギター・スタイルを確立した名演だ。
Helpless (1970)
クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングのアルバム『デジャ・ヴ』に収録された曲。
なんだかもう止まりそうなぐらい遅い、ニールの、力が抜けきって宙にへろへろと漂うようなか細い歌声が衝撃的だ。
レコーディングでは、深夜まで何度も繰り返し演奏させてメンバーを疲れさせ、余計なことをせずただゆっくりと演奏するようになるまで粘ってこのテイクを完成させたという。たしかにもう、全員死にそうな感じだ。
曲はシンプルそのもの、DとAとGのコードを繰り返しているだけなのに、1度聴いたら忘れられない美しさだ。
Down By The River (1969)
映画『いちご白書』でも印象的に使われた、『ニール・ヤング・ウィズ・クレイジー・ホース』収録の代表曲。
ニール・ヤングの決して上手いわけでもない荒っぽいギター・ソロと、これまた荒削りなクレイジー・ホースの演奏の火花散る対決が延々と続く、名演奏というよりは名勝負といった感のある9分超えの大作。
しかし1番の聴きどころはもちろん、一度聴いたら耳から離れない感動的な歌メロだ。
Cinnamon Girl (1969)
90年代のグランジ・ブームの頃、「グランジの旧約聖書」と呼ばれた、69年のアルバム『ニール・ヤング・ウィズ・クレイジー・ホース』のオープニング・トラック。
「オールド・ブラック」と呼ばれ、その後50年以上も使い続けることになる1953年型レスポールを手に入れたことで生まれた代表曲だ。ラフなギター・リフの歪み具合が最高。
After The Gold Rush (1970)
3rdアルバム『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』のタイトル曲。
若者たちが声を上げ、社会が大きく揺れた激動の60年代が終わり、70年代という新たな時代の幕開けを、期待と不安に揺れる思いを込めて歌われている、ニール・ヤングの曲の中でももっとも美しい曲のひとつだ。
宇宙開発や大量破壊兵器など、科学文明が急激な勢いで発展してきた時代に対し、「見ろよ、母なる自然が逃げ出していく」と、アンチテーゼを歌っている。
Heart Of Gold (1972)
1972年にカントリー・ミュージックの聖地、ナッシュヴィルで録音された名盤『ハーヴェスト』の収録曲。
全米No.1シングルとなった、ニール・ヤング最大のヒット曲だ。日本でも売れて、ニール・ヤングと言えばこれ、というほどの代表曲となった。
必要最小限の音とシンプル極まりないメロディーしかないのに忘れ難い印象を残す、まさに黄金のように光を放つ名曲だ。
Like a Hurricane (1977)
1977年発表の10thアルバム『アメリカン・スターズン・バーズ』の収録曲。
この曲も一度聴いたら忘れられない美しいメロディが印象的だが、それよりもライヴではとにかくニールがメッメタにギターを弾きまくる曲としても人気が高いナンバーだ。
わたしも初めて聴いたときは度肝を抜かれた。
いわゆるハード・ロックなどの「ギターソロ」というものとは明らかに違う、全然テクニックなんかないし、速弾きでもないし、音もキッタナいのに、こんなに心にグッとくるギターソロというものがあるのかと感動したものだ。まさに魂のギターだ。
わたしが観た唯一のニール・ヤングのライヴ、フジロック2001では、この曲を25分間に渡って演奏した。
Powderfinger (1979)
79年のアルバム『ラスト・ネヴァー・スリープス』収録曲で、そのシンプルながら耳に残るメロディと、グッとくるギターソロは、いかにもニール・ヤングらしい。
「パウダーフィンガー」のギターソロはライヴで演奏するたびに毎回違ったフレーズを弾くのが楽しみでもある。歌うようなメロディが聴こえてきたり、喜怒哀楽がそのまま音に染み出すような、唯一無二のギタリストだ。
Rockin’ in The Free World (1989)
89年のアルバム『フリーダム』収録曲。アルバムの最初にこの曲のアコースティック・バージョンが、そして最後にロック・バージョンが収められている。
アメリカの影の部分を直視し、やりきれない哀しみや怒りに駆られながらも、ロックンロールが象徴する光と希望だけは決して見失わずにいようと、強い意志のようなものが漲る、魂が震える名曲だ。
ロック好きならこの曲を聴いてなにも感じないなんてことはありえないだろう。
Hey Hey, My My (Into the Black) (1979)
79年のアルバム『ラスト・ネヴァー・スリープス』収録曲。
「王様は死んでも忘れられはしない」「これはジョニー・ロットンの物語」などと、エルヴィス・プレスリーの死や、セックス・ピストルズの登場に触れながら「ロックは決して死なないんだ」と歌い、そして「消えていくより燃え尽きたい」と、ロックンロールの栄枯盛衰やニール自身がそれに向き合う覚悟を歌った歌だ。
極限にまで歪ませたギターの不穏で苦しげな響きは、ロックが誕生して以来若者たちを魅了してきた、破壊的かつ破滅的な力の、剥きだしの正体のようだ。
わたしはこの曲を聴いて衝撃を受けて以来の、ニール・ヤングのファンだ。
ニール・ヤングを初めて聴く方には『グレイテスト・ヒッツ』か、オリジナル・アルバムでは『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』がお薦めだ。
「孤独の旅路」のようなアコースティック系が好きな方には『ハーヴェスト』を、グランジ系が好きな方には『ニール・ヤング・ウィズ・クレイジー・ホース』『傷だらけの栄光』あたりがお薦めです。
(Goro)