彼らが出てきた当時、会話の中で彼らのことを話すときには毎回「Lのほうのラッシュ」と言わなければならないのがめんどくさかったものだ。「ラッシュ」と言えばあのカナダのプログレ・バンドのRUSHのほうが有名だったからだ。
そのうちプログレなんて絶滅するから、「ラッシュ」と言えばLUSHのことだとみんなが思うような日が来るだろうと思っていたけど、そうもならなかった。そもそも今の時代に会話の中にラッシュが出てくることなんてない。
時は大いに流れてしまったのだ。そう考えるのはなんだか、本当に寂しくなるけれども。
その、女子と男子が2人ずつで4人組のLUSHは、英ロンドンで結成され、1990年にデビューした。
シューゲイザー的なギター・サウンドと、女子2名によるファルセット・ヴォイスで、透明感のあるドリーミーな楽曲が特徴的だった。
90年代後半ぐらいからはブリット・ポップの流れに乗って、シンプルなギター・ロックへと移行し、ミキも地声で歌うようになり、とてもカッコ良くなった。さらにブレイクするかと思った矢先にドラマーのクリスが自殺、そのままラッシュは解散してしまった。
リード・ヴォーカルの赤い髪のミキちゃんは日本人とハンガリー人のハーフだ。ギターのエマちゃんは品の良い知的な雰囲気の女子だった。インディー・ロック好きのわれわれにとっての密かなアイドルで、ミキちゃん派だのエマちゃん派だのと他愛のない男子トークで盛り上がっていた。
それにしても時の流れはおそろしく速い。頭ではわかってるけど、気持ちが追いつかない。
以下は、わたしが愛するラッシュの至極の名曲ベスト5です。
Hey Hey Helen
1stアルバムより先に発売された、初期のシングル等を集めた編集盤『ガラ(Gala)』に収録された、アバのカバー。アバの1975年のアルバムに収録されていた、比較的マイナーな曲だ。
ラッシュのバージョンは、後のブリット・ポップを思わせるストレートなビートとポップセンスを垣間見た気がして、わたしはとても気に入っていた。
いかにもインディーズらしい録音が安っぽいところを除けば、このラッシュのカバーはアバの原曲よりもずっといい。
Sweetness and Light
エマ・アンダーソン作の2ndシングルで、米オルタナ・チャートで4位まで上がってアメリカでも注目を浴び、彼らの出世作となった。
透明度の高いヴォーカルとギターが交じり合って、独特の世界観を醸す、ラッシュのスタイルが確立された曲だ。大音量で聴きながら浸ってると実に気持ちがいい。
Single Girl
3rdアルバム『ラヴライフ(Lovelife)』は、それまでの作風から一転して、シンプルなビートとポップなメロディのギター・ロックに移行した。当時流行のブリット・ポップの波に乗った感じだけど、彼らにはこういうスタイルのほうが合ってるように思う。
この曲はエマの作で、アルバムからの1stシングルとなったが、エマ本人はこの曲を「あまりにポップすぎる」としてシングルにすることを嫌がったそうだが、結果は全英21位と、彼らにとってのチャート最高位を記録している。
For Love
1stアルバム『スプーキー(Spooky)』の先行シングルとなった、初期の名曲。全英35位、米オルタナ・チャート9位。
ミキが書いた曲で、ドリーミィなシューゲ的スタイルから脱却して、キャッチーなメロディで新たな方向性を打ち出した曲だった。
この曲もあの1991年の名曲群のひとつとして、忘れられない1曲だ。大好きだったなあ。
Ladykillers
3rdアルバム『ラヴライフ(Lovelife)』のオープニング・トラック。全英22位。
ミキが書いた曲で、タランティーノ作品のアクション・シーンにでも使えそうなクールな曲だ。内容は、女たらしのレディキラーたちに冷や水をぶっかけるようなフェミニスト的なものである。
アルバムは彼らの最高傑作となり、全英8位とセールス的にも成功した。バンドはまさに絶頂期を迎えていたが、残念ながらこれが彼らの最後のアルバムとなってしまった。
入門用にラッシュのアルバムを最初に聴くなら、『チャオ!~ベスト・オブ・ラッシュ(Ciao! Best of Lush)』がお薦めだ。最初に聴くべき代表曲はすべて網羅されている。