1990年代半ばにイギリスで巻き起こったブリット・ポップ・ムーヴメントは、94年の4月、オアシスが「スーパーソニック」でデビューし、ブラーが名盤『パークライフ』をリリースしたところから本格的にスタートしたと言えるだろう。
〈ブリット・ポップ〉の定義は様々だけど、簡単に言ってしまうと、60~70年代に栄華を誇った王道ブリティッシュ・ロック、すなわちブリティッシュ・ビート、グラム・ロック、パンク・ロックへの回帰だったと言える。そしてその共通項は、ブリティッシュ・ロックの核とも言える「ポップ」ということだったのだ。
ぶっちゃけこういうムーヴメントというものは、だいたいにおいてレコード会社と音楽マスコミが主導するもので、どうしたって過大評価や玉石混淆になるのは致し方ないことだが、ここではあえて絞り込まず、今もなお輝き続けるアーティストから、あのとき一瞬だけ輝いたアーティストたちまで広く紹介するつもりで、30組30曲を選んでみた。
94年から97年まで、およそ4年に渡るブリット・ポップ・ムーヴメントの名曲・代表曲を、前編・後編に分け、年代順に紹介していきたいと思います。
まずは前編、1994年~95年に発表された楽曲を、リリース順に紹介していきます。
Oasis – Supersonic
ブリット・ポップ・ムーヴメントの起点となった、オアシスのデビュー・シングル。全英31位と、本国ではロケット・スタートとはならなかったみたいだけど、当時のわたしには彼らの登場のインパクトは強烈だった。おいおい、ロック史に残る名曲でデビューしやがった!と驚愕したものだった。
Blur – Parklife
オアシスのデビューから2週間後にリリースされたブラーの3rdアルバム『パークライフ(Parklife)』のタイトル曲。アルバムは全英1位の大ヒットとなり、この曲もシングル・チャートで10位のヒットとなった。
このアルバムの大ヒットとオアシスの登場という、英国ロックにとっての90年代最大の事件によって、ブリット・ポップ・ムーヴメントが始まった。
Echobelly – Insomniac
ロンドン出身で、オアシスより5カ月早くデビューしたエコーベリーの2ndシングル。インド系イギリス人で元キックボクサーというヴォーカリスト、ソニアとギターのグレンによって書かれた曲だ。全英47位。当時イギリスで流行していた、コカインの濫用に警鐘を鳴らす内容だ。
The Lightning Seeds – Change
1989年にデビューした、リヴァプール出身のバンド。いかにもリヴァプールらしい、と言うのは勝手な思い込みなのかもしれないが、ネオアコの要素も残す、ポップ色が強いパンドだ。
この曲は3rdアルバム『ジョリフィケイション(Jollification)』からのシングルで、全英13位のヒットとなった。
supergrass – caught by the fuzz
オックスフォード出身の3人組のメジャー・デビュー曲。
ヴォーカルのギャズ・クームスは当時18歳。いかにも十代の若者らしい、初期衝動や闇雲な疾走感がいい。パンク風のラウドなサウンドとポップなメロディの融合はいかにものブリット・ポップだ。全英47位。
Sleeper – Inbetweener
ブリット・ポップ・ムーヴメントでは女子ヴォーカルのバンドもも多く出てきた。
このバンドのフロントマン、マンチェスター大学で政治学を修めたルイーズ・ウェナー嬢はいかにも賢そうな顔立ちをした美人だ。
この曲も彼女が書いた曲で、素晴らしいポップ・センスとソングライティティングの技術を感じる。全英16位のヒットとなった。
Elastica – Waking Up
ロンドン出身のエラスティカは、ドラマーの男子以外は全員女子というめずらしい編成のバンドだった。
フロントマンのクール・ビューティー、ジャスティーンは、スウェードのブレットの元カノで、当時はブラーのデーモンの今カノだったことも話題になった。
この曲は全英13位のヒットとなり、この曲を収録した1stアルバムは全英1位の大ヒットとなった。
The Boo Radleys – Wake Up Boo!
リヴァプール出身のバンドで、95年にシングルとして発表したこの曲が全英9位の大ヒットとなった。
この曲は日本でもヒットし、今だにCMやテレビ番組の中で使用されるのを耳にする。
タイトルもアーティストも全然知られていないけど、聴けば「ああ! この曲か!!」となる人も多いはずだ。
Marion – Sleep
マンチェスター出身のバンドで、この曲は2ndシングルとしてリリースされ、全英53位。1stアルバムは全英10位のヒットとなった。
名曲というほどのことはないにしても、勢い一発、粗削りなギター・ロックに、ザ・スミスを思い出させるようなハーモニカが印象的だ。
Radiohead – High and Dry
レディオヘッドの2ndアルバム『ザ・ベンズ(The Bends)』もブリット・ポップ期に生まれた名盤だ。この曲はその2ndからのシングルで、全英17位のヒットとなった。シンプルだが抒情的なメロディが光る名曲だ。
オールド・ファンには、この時代のレディオヘッドがいちばん良かったと言う人がいる。時代遅れもいいところだが、わたしもそのひとりだ。
Gene – Sleep Well Tonight
ロンドン出身のバンドで、この曲は3枚目のシングルで、全英チャート36位と、初のトップ40入りを果たした出世作。
なぜか当時はザ・スミスと比較され、モリッシーにも気に入られていたそうだけど、それはやや翳のある楽曲のせいだろうか。
影響は受けているのかもしれないが、似てはいないと思う。
Bernard Butler & McAlmont – Yes
スウェードのギタリストだったバーナード・バトラーがスウェード脱退の後に、ナイジェリア系イギリス人歌手デヴィッド・マッカルモントと結成したデュオ。
この曲はデビュー・シングルで、全英8位のヒットとなった。3オクターヴの声域を持つマッカルモントの驚異的な歌声とストリングスの美しいアレンジが印象的だ。
Ash – Girl From Mars
アッシュは北アイルランドの出身ながら、ブリット・ポップの波に乗ってブレイクした。
この曲は彼らのメジャー・デビュー・アルバム『1977』からのシングルで、全英11位と彼らにとって初めてのヒットとなった。
当時まだ10代だった彼らの、ありったけのエネルギーを放出するかのようなラウドなサウンドと疾走感の中にもポップなメロディが光るのがいかにもブリット・ポップ世代だった。
Pulp – Common People
オアシス、ブラーに次いでブリット・ポップの顔となったのがこのパルプだった。
金持のお嬢様には貧しい「庶民」の気持ちなんて絶対にわからない、と歌ったフロントマンのジャーヴィスの実体験に基づくリアルな歌詞がリスナーの共感を呼んで全英2位の大ヒットとなり、アルバムも全英1位に輝いた。
Menswear – Being Brave
そのキメキメのルックスから、デビュー前から話題が先行し、日本でも女性ファンを中心に本国以上に過熱した人気ぶりが異常なほどだったバンドだ。
この曲は1stアルバムからのシングルで、全英10位のヒットとなった。
しかし3年後にリリースした2ndアルバムは契約先が見つからず、日本のみの発売となった。恐ろしいほどの凋落ぶりだった。
彼らのウィキを開くと、真ん中あたりにわざわざ太文字で「ブリットポップの徒花」とあるのが嫌でも目に入る。
しかしロックの歴史は幾多の徒花たちが作ってきたのだ。ロックバンドがチャラくて徒花で何が悪いというのか。
Cast – Sandstorm
ノエル・ギャラガーも熱烈にリスペクトしたリヴァプールのバンド、ザ・ラーズの元ベーシスト、ジョン・パワーを中心に結成したバンド。
ザ・ラーズにも似て、いかにもリヴァプールらしい、親しみやすいポップな音楽性だ。
この曲は1stアルバムからのシングルで、全英8位のヒットとなった。
以上、ブリット・ポップ!【30組30曲】〈前編 1994~95〉でした。
〈後編1996~97〉は明日公開となります。乞うご期待!
(by goro)