ジョニー・サンダースは、1973年、21歳でニューヨーク・ドールズのギタリストとしてデビューし、38歳でドラッグのオーバードーズで世を去った。
豪快かつクールな唯一無比のギターを弾き、才能あるソングライターであり、『L.A.M.F.』というロック史に残る名盤を生み、セックス・ピストルズをはじめとする70年代パンク・ムーヴメントに多大な影響を及ぼしながらも、最後までメジャーな存在になることはなかった、真のアンダーグラウンド・ヒーローだ。
わたしは「ドラッグで身を削った破滅型ミュージシャン」という生き方をほんのちょこっともカッコいいなんて思わないし、心からアホだと思っている。
でも、今回あらためて彼の遺した音楽を聴き返しながら、それでもわたしにとってジョニー・サンダースは、最も好きなロック・ギタリストのひとりであることは永久に変わらないだろうと思った。
NYパンクの戦友たち、ラモーンズ、パティ・スミス、トーキング・ヘッズ、ブロンディなどがすでに《ロックの殿堂入り》に選ばれているが、ジョニーは選ばれていない。この先もきっと迎え入れられることはないだろう。
代わりに《ロックの快楽の殿堂入り》の第1号に選ぼう。ジョニー、おめでとう。
ここでは、わが愛するジョニー・サンダースの、ハートブレイカーズ時代とソロの楽曲から選んだ、至極の名曲ベストテンを選んでみました。
ニューヨーク・ドールズのベストテンは、またそのうち。
London Boys
songwriters : Johnny Thunders, Billy Rath, Walter Lure
78年のソロ・デビュー作『ソー・アローン(So Alone)』収録曲。
前年に発表されたセックス・ピストルズのアルバム『勝手にしやがれ』収録の「ニューヨーク」で、ニューヨーク・ドールズのことをボロクソにこきおろされたお返しに「ロンドンのかわいい坊やはあやつり人形みたいで可哀相w」と、ピストルズ風のサウンドで返答した曲。
ピストルズ風なのはそれもそのはず、元ピストルズのギタリスト、スティーヴ・ジョーンズとドラマーのポール・クックが参加しているからだ。
楽しそうなことこの上ない。
In Cold Blood
songwriters : Johnny Thunders
1983年に発表された2枚組レコードで、1枚が5曲入りのスタジオ録音、もう1枚がライヴ盤という実に中途半端な変則的な2ndソロ・アルバム『イン・コールド・ブラッド(In Cold Blood)』のタイトル曲。
プロデュースはなんとストーンズの黄金時代を支えたジミー・ミラーだ。
ヴォーカルがイッちゃってるのと、狂気のように響き渡る尖ったギターのアブない感じがたまらない。
Sad Vacation
songwriter : Johnny Thunders
ジョニー・サンダースの弾き語りを中心にしたソロ・アルバム『ハート・ミー(Hurt Me)』収録曲。
21歳でオーバードーズで死んだ元セックス・ピストルズのシド・ヴィシャスへの想いを歌った歌だ。アコギの弾き語りに、悲壮な音色のエレキギターが被さる。
ピストルズとハートブレイカーズは一緒にツアーを回るなど、親交が深かったようだし、シドはジョニーの「ボーン・トゥ・ルーズ」をカバーするなど、彼に憧れてもいたようだ。
そんなシドに対してジョニーは、「もしかしたらおれがおまえの運命を変えてやれたのかもしれないのに。ごめんよ。なんて言えばいいかわからない…」と歌う。
ジョニーのか細い声が、せつないとか哀しいとかを通り越して、痛々しい。
Get Off the Phone
songwriters : Walter Lure, Jerry Nolan
1977年のハートブレイカーズの名盤『L.A.M.F.』収録曲。
ハートブレイカーズはジョニー・サンダースとウォルター・ルー(どっちもキンクスの曲みたいな名前だな)のツイン・ヴォーカルで、この曲はウォルターがリードを取り、サビでジョニーがコーラスを被せるスタイルだ。
ジョニーのギターがとにかく豪快で強烈。
こういうギタリストだから好きになったんだよなあ。
Let Go
『L.A.M.F.』収録曲。ジョニーが書いた曲でリード・ヴォーカルもジョニーだ。
シンプルなロックンロールだけど、こんなふうに自由にカッコ良くロックンロールを弾けるギタリストはそうそういない。
Too Much Junkie Business
songwriter : Johnny Thunders, Walter Lure
2枚組LP『イン・コールド・ブラッド』のライヴ・ディスクのほうに初収録された曲。
しかしあのレコードは、ギターの音がデカ過ぎてヴォーカルが全然聴こえない、海賊盤並みのひどい録音だが、たぶんジョニーが歌っているのだろう。
元々はハートブレイカーズ時代のライヴの定番曲で、ウォルターがリード・ヴォーカルを取っていた。でもなぜかレコードには収録されず、お蔵入りになった。やっぱりタイトルや歌詞の内容がアレだからかな。
この動画の音源はそのハートブレイカーズ・バージョンの蔵出しテイクだ。
タイトルはチャック・ベリーの「トゥー・マッチ・モンキー・ビジネス」のもじりだけど、この曲の方がカッコいい。
チャック・ベリーを超えたな。
One Track Mind
songwriters : Walter Lure, Jerry Nolan
わたしが『L.A.M.F.』のCDを手に入れたときは、輸入盤の『L.A.M.F. REVISITED』という、ジョニーがミックスをし直したバージョンのものになっていて、曲順もオリジナルと違い、この曲が1曲目で、「ボーン・トゥ・ルーズ」が最後だったのだ。だからわたしはこっちの曲順の方に慣れているし、この曲こそがオープニングにふさわしいと思っている。
CDを買って、この曲を1分も聴かないうちにわたしはハートブレイカーズのファンになっていた。
ピストルズの『勝手にしやがれ』と同じぐらい好きだ。
You Can’t Put Your Arms Round a Memory
songwriter : Johnny Thunders
『ソー・アローン』収録曲で、まさにこのジャケットがすべてを表しているように、孤独なジョニーが心情を吐露したようなせつない名曲。多くのアーティストにカバーされた。
Born to Lose
songwriter : Johnny Thunders
これぞジョニー・サンダースのテーマ曲とも言うべき、代表曲。
「失うために生まれた」とか「生まれながらの負け犬」とでもいう意味だけど、ジョニーの、成功を失い、失敗を重ねる、せつない人生を言い当てているし、たぶんジョニーのファン全員が自分もそうだと思っているのだと思う。わたしもそのひとりだ。
だからわれわれは、ジョニーを愛するのである。
Chinese Rocks
songwriters : Johnny Thunders, Dee Dee Ramone, Richard Hell, Jerry Nolan,
クレジットにジョニーやジェリー・ノーラン、ディー・ディー・ラモーン、リチャード・ヘルら、当時のNYパンクのジャンキーを代表する名前が並ぶ、ハートブレイカーズの代表曲であり、ニューヨーク・パンクのシンボルとなった名曲。ラモーンズも歌っている。
「おれはチャイニーズ・ロックス(ヘロイン)によって生きている。おれの大事なものはすべて質屋にある」と自虐的に歌う、とことんアホな歌だ。
こんなアホな歌でも名曲になるのが、ロックンロールの素敵なところだ。
以上、ジョニー・サンダース【名曲ベストテン】でした。
(by goro)