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“I’m Not There”
監督:トッド・ヘインズ
主演:ケイト・ブランシェット、クリスチャン・ベール
音楽:ボブ・ディラン
『ベルベット・ゴールドマイン』のトッド・ヘインズ監督が、今度はボブ・ディランを標的にして、彼の半生を好き勝手に描いた作品。
デビュー直前のディランを黒人少年が演じ、「風に吹かれて」の頃をクリスチャン・ベールが演じ、「ライク・ア・ローリング・ストーン」の頃を女優のケイト・ブランシェットが演じるなど、6人の俳優がディランの様々な側面を演じるという変わった手法だ。
変わった手法を思いつくのはいいのだけれど、結果それが全然面白くならないというのが、この監督の痛いところである。
映像もキレイなのに、なにしろ面白くならない。
でも、ケイト・ブランシェットは素晴らしい。
そもそも女優がディランを演じるというアイデアもユニークだが、なにより60年代半ばのディランを、見た目から喋り方からタバコの吸い方から、仕草から歩き方から癖まで、驚くほどそっくりに演じているのが凄い。
あの『ドント・ルック・バック』や『ノー・ディレクション・ホーム』などのドキュメンタリーで使われていた、当時のディランの記者会見や、オフショットでの映像を、一言一句そのまま再現して見せているのが面白い。
しかし、この映画の見どころはこのケイト・ブランシェットのみで、あとは〈その他のディラン〉たちや、唐突にビリー・ザ・キッド(そりゃ、ディランはビリー・ザ・キッドの映画に出ていたけれども、ビリーは演じていない)なんかがかわるがわる出てくるけれども、ただただ見る者を混乱させるだけで、面白いところはまったくない。
どうせならケイト・ブランシェットだけでやってほしかった。それならもっとスッキリして、ユーモラスで画期的な映画になっただろうに。
今作ではディランの楽曲の使用許可が下りたらしく、最初から最後までディランの曲が使用されている。そのうえ歌詞もちゃんと日本語字幕で出るので、そこは良かったかな(それにしても、よく許可したものだ)。
(Goro)