1993
アメリカのロックシーンは、グランジ・ロックの流行こそやや翳りが見え始めたものの、パワー・ポップなど新たな流行の兆しが見え始めたし、轟音ギターなしの伝統的なアメリカン・ロックのスタイルに回帰する者もあり、シーンの盛り上がりは衰えなかった。
一方で、イギリスのロックシーンはマッドチェスターもシュゲイザーもほぼ終了し、スウェードだけが孤軍奮闘しているような寂しい状況だった。
しかし、そのスウェードが開いた《ブリット・ポップ》という扉からは、翌年から続々と新たな世代が登場し、英国ロックシーンを再び賑わすことになる。この年はその開幕までの、芝居の幕間のようなものだった。
以下は、そんな状況が選曲にも自然に映しだされ、アメリカ9組、イギリス1組という偏ったチョイスとなった1993年の10曲です。
Beck – Loser
もともとはインディ・レーベルでルーツ・ミュージック・オタクみたいなディープなアルバムを作っていたベックの、メジャー・デビュー・アルバム『メロウ・ゴールド』からのシングル。全米10位の大ヒットとなった。
トーキング・ブルースをドクター・ジョンの曲のサンプリングでヒップホップ風に仕立て上げたユーモアあふれる怪作だ。
「おれは負け組のダメなやつ、なぜ生かしておく?」というサビの自虐的なフレーズが、社会に格差が広がりつつあった当時の状況を象徴するものとして話題にもなった。負け組所属を自覚していたわたしの胸にも深く突き刺さったものだ。
PVの最初でベックの顔部分にモザイクがかかっているのは、『スター・ウォーズ』のキャラクターのマスクを被っているから。勝手に使ったのがバレたんだな。
Nirvana – Rape Me
まさに「全世界待望の」という言葉が相応しかった、ニルヴァーナの3rdアルバムは、殺伐としたネガティヴな世界観に覆われた、刺々しくヘヴィなサウンドのアルバムだった。
この曲もまた自嘲的とも言える、ユーモアで薄く包みながらも、憎悪や絶望がヌラヌラと伝わってくる禍々しい曲だ。素晴らしい。
Smashing Pumpkins –Today
デビュー当初からすでに完成していたスマッシング・パンプキンズがさらなる成長を遂げた名盤2nd『サイアミーズ・ドリーム』からのシングルで、彼らの代表曲のひとつだ。
歌いだしの「今日は今までで最高の日…」というフレーズを聴くだけで当時の楽しかった(はず)青春時代の思い出が甦る。まあ、金はないし、フラれてばっかりではあったけれども。。
The Breeders – Cannonball
ピクシーズと並行して活動していたキム・ディールのバンド、ザ・ブリーダーズの2ndアルバム『ラスト・スプラッシュ』からのシングルで、米オルタナチャートで2位のヒットを記録した。アルバムも全英5位、全米33位でミリオンセラーを記録した。
ピクシーズと方向性も大きく違わないし、なによりキム・ディールの才能と愛らしさにあふれた作品だ。
PVのキムもえらくカワいいが、ちなみに左端でギターを弾いているのはキムの双子の姉、ケリー・ディールである。
The Posies – Solar Sister
米ワシントン州出身のパワー・ポップ・バンド、ポウジーズの3rd『フロスティング・オン・ザ・ビーター(Frosting on the Beater)』からのシングル。
甘味強めの流麗なメロディとラウドなサウンドの組み合わせは新時代のパワー・ポップと歓迎され、一躍注目を浴びた。
この頃になるとハード・ロック風のグランジ・ロックはやや飽きられつつあり、彼らのようなパワー・ポップの人気が高まっていく。
The Lemonheads – Into Your Arms
米ボストン出身のレモンヘッズの3rdアルバム『カモン・フィール』からのシングル。米モダンロックチャートで第1位のヒットとなった彼らの代表曲だ。
フロントマンのイヴァン・ダンゴーはオルタナにあるまじき超イケメンであり、女性人気も高かった。
Blind Melon – No Rain
カリフォルニア出身のブラインド・メロンの1stアルバムからのシングルで、ガンズ・アンド・ローゼスのアクセル・ローズの推しということから注目され、全米20位、全英17位のヒットとなった。アルバムは全米3位まで上がる大ヒットとなった。
美音のストラトとアコースティックなサウンド、メロディが爽快で、いかにも雨が上がりそうな気がしてくる。
Jellyfish – New Mistake
ジェリーフィッシュの2nd『こぼれたミルクに泣かないで(Spilt Milk)』収録曲。
前作ではパワー・ポップ風のサウンドだったが、この2ndどちらかというとビーチ・ボーイズやビートルズ、クイーン、10ccなどの、複雑ポップなコンセプト・アルバムのほうに近い。その世界観は、絢爛豪華、極彩色のオモチャの王国のようだ。
彼らは本国アメリカ以上に特に日本で愛されたが、このアルバムを最後にあっけなく解散してしまった。
4 Non Blondes – What’s Up
サンフランシスコ出身のバンド、4ノン・ブロンズがこの年かっとばした、世界的ヒット曲。。
日本でもタイヤのCMなんかに使われたり、いろんなところで聴いたので、耳にしたこともある人も多いだろう。
一度聴いたら耳に残る、印象的なメロディと大迫力の歌声だ。
Suede – Animal Nitrate
イギリスはシューゲイザーもマッドチェスターも衰退して寂しい状況の中、孤軍奮闘したのがこのスウェードだった。
この年リリースした1stアルバム『スウェード』は、この年の最高の名盤のひとつだった。このアルバムをきっかけにブリット・ポップの扉が開いたと言っても過言ではない。
シングルカットされたこの変態的な香り漂う名曲は、全英7位と、初のトップ10ヒットとなった。
選んだ10曲がぶっ続けで聴けるYouTubeのプレイリストを作成しましたので、ご利用ください。
♪YouTubeプレイリスト⇒ ヒストリー・オブ・ロック 1993【クライマックスの米国と幕間の英国】Greatest 10 Songs
ぜひお楽しみください。
(by goro)