1987
この年、世の中はバブル好景気に突入し、景気よくマイケル・ジャクソンやマドンナが来日公演を果たし、ロックシーンでは久々の大型新人、ガンズ・アンド・ローゼズの爆発的なセールスが話題になっていた。
70年代のハード・ロック・バンドのようなストロング・スタイルに、同時代のメタルのスピード感とバッド・ボーイズ・ロック風の華があり、ある意味、完璧なメインストリーム・ロックの最終兵器だった。
その騒ぎはまるで生きた恐竜が見つかったかのような大騒ぎで、わたしの周囲のロック好きはほぼ全員が夢中になって聴いていたと言ってもさほど大げさではないほどだった。
しかし21歳のわたしは家賃1万円ちょっとのボロアパートに住み、映画館で働き、薄給と年間48日だけの休みをいただき、バブル景気とはまったく縁のないクソほどつつましい地味な生活をしていた、甚だ不貞腐れた青春時代だったからか、ガンズ・アンド・ローゼスみたいな華やかでマッチョで悪カッコいい、さぞモテモテだろうロックにはあまり共感できるものがなかったのだ。ちなみにこの年のもうひとつのビッグ・セールス、こちらはそんなにモテなさそうだったU2の『ヨシュア・トゥリー』のほうはよく聴いたけれども。
他にエアロスミスの劇的復活などもあったが、この頃から、80年代を支配したあのシンセ・サウンドは次第に流行遅れとなり、古典的なバンド・スタイルが復活し、インディーズ系のオルタナティヴ・ロックも注目されるようになっていく。
それは、派手で非日常的なカッコ良さが売りのメインストリーム・ロックを次第に駆逐し、原点回帰的な、リアリティのあるロックとして、若いリスナーの支持を得るようになっていく。
その意味でガンズ・アンド・ローゼスは、最後のメインストリーム・ロックが打ち上げた大輪の花火のような存在だった。
以下はそんな1987年を象徴する10組10曲です。
Guns N’ Roses – Sweet Child O’ Mine
彼らのデビュー作で、2,800万枚を売り上げたモンスター・アルバム『アペタイト・フォー・ディストラクション』からの3枚目のシングル。彼らにとって唯一の全米1位を獲得した大ヒット曲だ。
スラッシュによるエモーショナルなギター・リフが印象的な名曲。ガンズの音楽がイマイチよくわからない当時のわたしも、この曲は割合に好きだった。
U2 – I Still Haven’t Found What I’m Looking For
重厚かつ斬新な名盤『ヨシュア・トゥリー』からのシングルで、全米1位、全英6位の大ヒットとなった。
アルバムはめちゃくちゃ売れて、全米チャート9週連続1位、そして世界中のチャートで1位を獲得し、2,500万枚を超えるU2史上最大のメガ・セールスとなった。
U2には名盤が多いが、最高傑作となるとやはり未だにこのアルバムを挙げたくなってしまう。
Aerosmith – Dude (Looks Like a Lady)
80年代に入ってからのエアロスミスは、ドラッグやアルコールの問題と人間関係の悪化でメンバーの相次ぐ脱退で最悪の状態だったが、オリジナル・メンバーも復帰し、前年のRUN DMCとの共演をきっかけにシーンに戻って来た。
そしてボン・ジョヴィのプロデューサーやソングライターを招いて制作されたアルバムが『パーマネント・ヴァケイション』だった。
70年代のエアロのゴツゴツしたハード・ロック・サウンドとはまた違うコマーシャルなサウンドへと様変わりしたが、もともとエアロが持っていたキャッチーなポップ・センスをより生かすことになり、ここから後の新生エアロは無双状態になっていく。
Sting – Englishman in New York
スティングの2枚目のソロ・アルバム『ナッシング・ライク・ザ・サン』からのシングルだ。レゲエ・ビートとジャズを融合させた斬新でエレガントなサウンドで、特にヨーロッパで人気を博した。
アルバムは全英1位、日本でもオリコン1位になるなど、世界的なヒットとなった。
Suzanne Vega – Luka
2ndアルバム『孤独(ひとり)Solitude Standing』からのシングルで、全米3位の大ヒットとなった。
両親から虐待を受けている少年の視点から語られた、胸が締め付けられるような歌詞が衝撃的だ。
スザンヌ・ヴェガ自身、ニューヨークのスパニッシュ・ハーレムで育ち、日常的にそんな虐待の光景を見ていたそうだ。
Los Lobos – La Bamba
ロス・ロボスはメキシコ系アメリカ人のバンドだ。
この年公開された同じくメキシコ系アメリカ人のロックスター、リッチー・ヴァレンスの生涯を描いた映画『ラ・バンバ』(名作!)の音楽を担当し、この主題歌は全米1位の大ヒットとなった。
The Hooters – Johnny B
ザ・フーターズは米フィラデルフィア出身で、80年代風サウンドに、フォーク、ケイジャン、ザディコ、レゲエ、スカなどの民俗音楽を融合させ、マンドリンやメロディカ、アコーディオンなどを使用した独自のサウンドを創り上げたバンドだ。
この曲は3rdアルバム『ワン・ウェイ・ホーム』からのシングル。
メンバーのロブ・ハイマンはシンディ・ローパーの名曲「タイム・アフター・タイム」の作者でもある。
The Sugarcubes – Birthday
シュガーキューブスはアイスランドのインディーズ・バンドで、ヴォーカルが後に世界的スターとなる、ビョークである。バンドは短命に終わったが、とにかく彼女の歌声は衝撃だった。
この曲はデビュー・アルバム『ライフズ・トゥー・グッド(Life’s Too Good)』からのシングルで英インディ・チャート2位のヒットとなった。
Big Black – Bad Penny
米オルタナティヴ・ロック界のカリスマ、スティーヴ・アルビニを中心としたバンド。
ドラムマシンを使い、工事現場並みのノイジーで暴力的な凄まじく尖ったサウンドが特長で、後のインダストリアル・ロックにも多大な影響を与えた。。
バンドは2枚のアルバムを残して解散したが、この曲は名盤2nd『ソングス・アバウト・ファッキング(Songs About Fucking)』収録曲。
Dinosaur Jr – Little Fury Things
J・マスシスの今さっき起きたばかりみたいな脱力ヴォーカルと豪快な轟音ギターというミスマッチな組み合わせの魅力でロックの新時代を拓いたダイナソーJr.の2ndアルバム『ユーアー・リヴィング・オール・オーヴァー・ミー(You’re Living All Over Me)』の、衝撃のオープニング・トラック。
ハスカー・ドゥやニール・ヤングの影響も見られる、ポップな泣きメロとノイジーで殺伐とした音楽性の彼らは、当時、米アンダーグラウンド界の帝王的存在だったソニック・ユースのメンバーたちが絶賛し、彼らとレーベルとの契約に尽力したことから、脚光を浴びることになった。
選んだ10曲がぶっ続けで聴けるYouTubeのプレイリストを作成しましたので、ご利用ください。
♪YouTubeプレイリスト⇒ ヒストリー・オブ・ロック 1987【メインストリーム・ロック最後の大物】Greatest 10 Songs
ぜひお楽しみください。
(by goro)