グラム・ロックとは「グラマラスなロック」という意味で、メイクをしたりきらびやかな衣装を着たりという外見的な共通性を指すイメージがあるが、その本質は、ポップでキャッチーな英国王道ロックへの原点回帰だったように思う。
ビートルズ以来、良くも悪くもアートのひとつと化したロックは「進化」することが至上命題とされた。70年代に入り、アーティストもリスナーも年齢を重ね「大人」になってくると、難解なプログレッシヴ・ロックや、技術的にも難易度の高いハード・ロックなどがもてはやされた。大人のリスナーたちはそれを支持したが、新たなリスナーである少年少女はついていけなかったのだ。
その少年少女が飛びついたのが、音楽的にポップでわかりやすく、見た目も派手でカッコ良い、理屈抜きで楽しめるグラム・ロックだったのだと思う。言わばロック史上最初の世代交代であり、ロックの原点への回帰だった。これはその後も、新しいロック世代が出てくるたびに、パンクやブリット・ポップといった、原点回帰が繰り返されることになる。
グラム・ロックは1972~73年頃をピークに、少年たちの成長と同じ速さで、あっという間にブームが終息した。そして少年たちは、少しだけ成長すると、次は同世代のパンク・ロックに夢中になったり、自らパンク・ロッカーとなったのだった。
デヴィッド・ボウイなど、本当に才能のあったアーティストたちはその後、グラムから脱皮してさらに新しいスタイルの音楽を展開していったが、多くはグラム・ロックの終焉と共に消えていった。いわゆる「時代の徒花」となったのだ。
しかし、このブログで繰り返し書いているように「ロックが徒花でなにが悪い」という基本テーゼに従い、ここではあえて時代の徒花も含めた「グラム・ロック入門」として、紹介したいと思う。
ムーヴメントと名の付くものは、いつだって玉石混淆である。永久不滅の「玉」が聴き継がれるのは当然としても、徒花と消えた「石」を楽しんでみるのもまた、ロックのオツな楽しみ方でもあるのだ。
T. Rex – Get It On (1971)
グラム・ロックのブームはこの曲の大ヒットから始まったと言っていいだろう。フロントマンのマーク・ボランの中性的で華のあるルックスと、わかりやすいシンプルなブギーと斬新なサウンドは、英国でも日本でも少年少女たちを熱狂させた。
演奏技術なんてたいして無くても、彼らはキャッチーでカッコいいヒット曲を連発した。やっぱりロックスターというのはこうじゃなきゃね。
David Bowie – Ziggy Stardust (1972)
そしてグラム・ロックの大黒柱、天才デヴィッド・ボウイの代表曲だ。
こう言ってしまうのもなんだが、ぶっちゃけこの人を除いたら、後はほぼ全部徒花みたいなものだ。ただし、ロック史上に燦然と輝いた忘れ難き徒花ではある。
この曲を含んだアルバム『ジギー・スターダスト』は、グラム・ロックの範疇を超えたロック史上屈指の名盤だ。
Mott the Hoople – All the Young Dudes(1972)
デヴィッド・ボウイが作詞・作曲、プロデュースを務めた曲で、全英3位とモット・ザ・フープルにとって最大のヒット曲となった、代表曲である。
イアン・ハンターの青春の甘酸っぱさそのものみたいな声と、せつなくとグッとくるメロディがたまらない。
Roxy Music – Virginia Plain(1972)
ロキシー・ミュージックは本質的には全然グラム・ロックではないと思うのだけれど、最初は流行の波に乗って、グラムのフリをして出て来た感じだった。
ボブ・ディランをポップにしたような歌い方と楽曲を、ブライアン・イーノのシンセが引っ掻きまわすアヴァンギャルドなサウンドが斬新だった。この曲は彼らの1stシングルで、全英4位のヒットとなった。
Silverhead – Ace Spreme(1972)
見た目も楽しみたいグラム・ロックなので映像が欲しいところだけど、残念ながらシルヴァーヘッドのこのデビュー曲の動画は現在YouTubeには存在していない。
それも仕方がないのだ。彼らは日本では大人気だったのだけれど、本国イギリスではまったく売れていなかったのだ。今やイギリスでは誰も知らないバンドなのだろう。2012年にはオリジナル・メンバーで再結成ライヴを、日本のみで行っている。
でもこのアルバムは、中身もジャケと同じぐらいカッコいい。せめてわれわれ日本人だけは彼らを忘れないでおこう。
Gary Glitter – Rock And Roll Part 2(1972)
この馬鹿も、当時はグラム・ロックの波に乗って大人気だった。このデビュー・シングルは、全英2位、全米7位の大ヒットとなっている。
2019年のアメリカ映画『ジョーカー』で、ジョーカーが覚醒して階段で踊るシーンでこの曲が使われたことが物議を醸した。それはこの「公衆の敵」、ゲイリー・グリッターが刑務所で服役中だったからだ。
彼は1999年に児童ポルノのダウンロードで有罪判決を受け、歌手としてのキャリアを終えた。そして2006年には児童性的虐待の罪で、 2015年には強姦未遂を含む複数の性犯罪で有罪判決を受け、懲役16年の判決が下り、現在も服役中である。
Slade – Cum On Feel the Noize(1973)
グラム・ロックと言われて見始めると少し戸惑うフロントマンの見た目と、古いお笑い芸人の甲高いツッコミ声のような歌声に早速げんなりするが、しかし当時はスレイドは大人気で、グラム・ロックの中心的存在だったのだ。
楽曲ももう、これぞグラムの徒花と言える、お祭り騒ぎだ。
全英1位の大ヒット曲で、後にクワイエット・ライオットやオアシスもカバーしている。
Sweet – Fox On The Run
グラム・ロック期にヒットを連発したイギリスのバンドで、この曲は全英2位、全米5位となり、彼らの代表曲となった。
グラム・ロック・ブームも終わった後でリリースされた曲で、すでにポップでライトな産業ロック風のサウンドに移行しつつある印象だ。
Alice Cooper – School’s Out(1972)
そもそも奇抜なメイクや派手な衣装で歌い始めた元祖は誰なのかという議論には様々な説があるだろうけど、この米国のバンド、アリス・クーパーはその有力候補だろう。
1970年には「エイティーン」で十代の若者のリアルな心情を歌い、1971年にはすでにメイクをして演劇的なステージを行っていたのだ。
この曲は全米7位、全英1位となった、アリス・クーパー最大のヒット曲。「学校はもう跡形もなくなった、もう永久に夏休みだ!」と歌い、米英の少年少女たちの熱狂的な支持を得た。
New York Dolls – Personality Crisis(1973)
ニューヨーク・ドールズは、ローリング・ストーンズとストゥージズに影響を受けたような、シンプルなロックンロールと、ジョニー・サンダースのギターを中心としたアグレッシヴなサウンドが魅力だ。派手な衣装やメイクでの激しいライヴは、デヴィッド・ボウイやルー・リードも絶賛したという。
この後に巻き起こるパンク・ロック・ムーヴメントはこのバンドの登場から始まったと言っていいと思う。
グラム・ロックの名盤を聴くなら、まずはT.レックスの『電気の武者』、そしてデヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』から入るのがお薦め。グラム・ロックの代表作であり、どちらもロック史に残る名盤だ。
(Goro)