⭐️⭐️⭐️
Free
“Fire and Water” (1970)
英ロンドンのバンド、フリーが1970年6月にリリースした3rdアルバムである。
前2作はあまり売れなかったようだが、本作からシングル・カットされた「オール・ライト・ナウ」の全英2位、全米4位となる大ヒットでいきなり大ブレイクをかました。
しかしそんな「オール・ライト・ナウ」のような曲が並んでいるのを期待して聴き始めると肩透かしを食らうかもしれない。
ラジオで長年オンエアされまくり、ロック・クラシックとなった明るくキャッチーな曲調の「オール・ライト・ナウ」は実はフリーの楽曲としては異色中の異色だ。本作では逆にラストのこの曲だけが妙に浮いてるような印象すらある。
あるいは今では「英国ハード・ロックの起原」と評されることもあることから、ディープ・パープルみたいなスピード感あふれるラウドなハード・ロックを期待してもやはりまた肩透かしを食らうことになる。
誤解恐れずにあえてわかりやすい言葉で言うと、遅くて、静かで、暗くて、スッカスカなのである。
当時、平均年齢20才という青々とした若造たちだが、なぜかちっともはしゃいでいないのである。20才にしてどこか、すべてを悟りきったかのように落ち着き払ったところがある印象は、決してポール・ロジャースの老け顔の印象だけではないはずだ。
遅いが決して重苦しくなく、静かだがしっかり熱く、暗いがウェットではなく、スッカスカに聴こえるほど無駄のない風通しの良い音、それがフリーという独自のサウンドで我が道を行ったバンドの魅力とも言える。これほどクールなバンドもなかなかいない。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 ファイアー・アンド・ウォーター
2 オウ・アイ・ウェプト
3 リメンバー
4 ヘヴィロード
SIDE B
1 ミスター・ビッグ
2 ドント・セイ・ユー・ラヴ・ミー
3 オール・ライト・ナウ
1曲目の「ファイアー・アンド・ウォーター」からいきなり彼ららしい魅力が炸裂する。
ギターはリズムを刻んでバンドを牽引しながら、ここぞというときには熱く歌う。異様に音数の少ないドラムは抑制されたビートを刻み、ベースは強い存在感で朴訥と歌い、ヴォーカルはやけに老成した、枯淡と艶っぽさと哀愁を併せ持つ激シブなソウルを歌う。ハード・ロックともブルース・ロックとも言えるが、それらにありがちな暑苦しさがなく、とことんクールで滋味深いサウンドである。
「リメンバー」の間奏のギターソロなどを聴いているとそんな少年のような年齢のギタリストが弾いていることを忘れて、いいオッサンが思わず聴き惚れてしまう。
かと思うと「ミスター・ビッグ」の間奏のように大人びたギターと奔放なベースが競い合うように熱くなり、高いところへと駆け上がっていくような若々しい瞬間もちゃんとある。
よくもまあ、こんな若くしてすでにえらく個性的なプレーヤーの4人が集まったものだと思う。
60年代のブルース・ロックとはすでに全然別のものになっているし、たしかに70年代ハード・ロックの萌芽を聴くこともできる。時代の転換点で揺れながら、新しい響きが生まれている感じだ。
アルバムも全英2位、全米17位まで上がる大ヒットとなった。
秋の夜長などに、まったりと聴きたいアルバムだ。
↓ 本作の顔ともいうべきタイトル曲「ファイアー・アンド・ウォーター」。
↓ 全英2位、全米4位の大ヒットとなった代表曲「オール・ライト・ナウ」。
(Goro)