⭐️⭐️⭐️⭐️
Etta James
“At Last !” (1960)
米ロサンゼルス出身のエタ・ジェイムズは、1955年に地元のモダンレコードからデビューし、1960年にはシカゴブルースの総本山、チェスレコードに移籍した。
一般に彼女の全盛期として知られているのはこのチェスレコードの在籍時代だ。本作はそのチェスレコード傘下のレーベル、アーゴから1960年11月にリリースされた1stアルバムである。カッコ内は米R&Bシングルチャートの最高位だ。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 Anything To Say You’re Mine
2 My Dearest Darling (5位)
3 Trust In Me (4位)
4 A Sunday Kind Of Love
5 Tough Mary
SIDE B
1 I Just Want To Make Love To You
2 At Last (2位)
3 All I Could Do Is Cry (2位)
4 Stormy Weather
5 Girl Of My Dreams (Boy Of My Dreams)
エタ・ジェイムズの歌声は、ソウルやブルースの女性シンガーにありがちな、豪快にどやしつけるような肝っ玉かあさん風の歌声とはちょっと違う。
力強く歌う部分ももちろんあるが、彼女が少しトーンを落として歌う声はわたしの言うところの「美人声」であり、ゾクゾクするような艶かしさがある。
彼女はブルースだけでなく、ジャズやポップスも歌ったが、タイトル曲の「アット・ラスト!」はそれらが混然一体となったような、エタ・ジェイムズの代表曲だ。
原曲は1942年のミュージカル映画「オーケストラの妻たち」に出てくる曲のカバーで、ウェディングソングなのだが、酒や麻薬に溺れ、幸福には程遠い人生を送っていた当時のエタ・ジェイムズの歌声で聴くと、夢見る想いが切実すぎて、思わずせつない気持ちになってしまう。ストリングスのアレンジがまた素晴らしい。
B1「アイ・ジャスト・ウォント・トゥ・メイク・ラヴ・トゥ・ユー」はチェスレコードの屋台骨を支えた名ソングライター、ウィリー・ディクスンの作で、マディ・ウォーターズが1954年にリリースしたヒット曲である。
マディがあの野太くでっかい声で「おれはただ、おまえとヤリたいだけなんだ!」とどやしつける、女子ならいろんな意味でチビりそうな曲を、女性のエタ・ジェイムズがカバーしたというのが面白い。
エタのバージョンは、冒頭からサディスティックにシャウトして攻め立てておきながら、最後はセクシーに「わたしはあんたと寝たいだけなのよ」と、耳元で囁くように繰り返す、ツンデレ・バージョンだ。膝から崩れ落ちそうになるぐらい良い。一度でいいから、艶っぽい美女からこんな風に言われてみたいものだ。エレガントでムーディーなストリングスのアレンジがまたカッコ良い。
チェスレコードの黄金時代を描いた2008年の映画『キャデラック・レコード』では、エタ・ジェイムズを、ビヨンセが好演している。
遊び人の白人の父と、商売女の黒人の母のあいだに生まれ、人の心を揺さぶる美しい歌声でスターになるものの、アルコールやドラッグで身を滅ぼしていくエタを熱演していた。B3「All I Could Do Is Cry」を涙ながらに歌うシーンなども素晴らしかった。
この『キャデラック・レコード』という映画の邦題には「音楽でアメリカを変えた人々の物語」という副題がつけられている。
いやいや、「音楽で世界を変えた人々の物語」と言うべきだろう。
↓ 米R&Bチャート2位となった代表曲「アット・ラスト!」。
↓ 艶かしいツンデレ・バージョンの「アイ・ジャスト・ウォント・トゥ・メイク・ラヴ・トゥ・ユー」。
↓ 『キャデラック・レコード』予告編。
(Goro)