ドクター・フィールグッド『ダウン・バイ・ザ・ジェティ』(1975)【最強ロック名盤500】#213

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#213
Dr. Feelgood
“Down By The Jetty” (1975)

背筋に電流が走った。

異様なほどキレのいいギター、噛みつかんばかりの獰猛さをあえて抑えているようなクールなヴォーカル、少しの緩みも許さず締め上げたようなタイトな演奏、そしてロックの原点に戻ったようなブルージーでシンプルな曲と、なにもかもがカッコ良すぎて、初めて聴いたときは背筋に電流が走ったものだった。今でも、聴くたびに興奮しないではいられない。

特にウィルコ・ジョンソンが弾く異様に切れるギターにはシビれた。
ソリッドでありながらしかし同時に弾むようにリズミカルでもある。ピックを使わずリズムとリードを同時に弾く。こんなギターは聴いたことがなかった。

70年代の半ば、ロックシーンはプログレにハード・ロックにアート・ロックにと多様化し、巨大産業化していく時代に、彼らはイギリスの小規模なクラブやパブで、シンプルなR&BやR&Rを演奏し、まるで初期のストーンズやアニマルズ、ザ・フーのような、ブリティッシュ・ロックの原点に立ち返った音楽を蘇らせた。

下の映像では、ステージの周囲で無邪気に踊る女の子たちと対照的に、ステージの上の緊張感でピリついた空気は、まるで革命前夜のようだ。

いや、この翌年にセックス・ピストルズが登場するのだから、たしかに革命前夜に違いない。
いわゆる「パンク革命」の導火線の役割をしたのがこのドクター・フィールグッドをはじめとする「パブ・ロック」と呼ばれた、偉大なるマイナーな扇動者たちだったのだ。

本作はそんな彼らの、1975年1月にリリースされたデビュー・アルバムである。

1955年から始まったロックシーンは、だいたい5年のサイクルでその様相がガラッと変わっているのだけれども、本作は「1970年代の後半戦」という新たなロックシーンの幕開けに相応しい1枚だ。

激シブなモノクロのジャケット、そしてあえてモノラル録音でリリースされたレコードは、彼らの無駄のない引き締まったサウンドをより際立たせている。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 シー・ダズ・イット・ライト
2 ブーン・ブーン
3 ザ・モア・アイ・ギブ
4 ロクセット
5 ワン・ウィークエンド
6 ザット・エイント・ザ・ウェイ・トゥ・ビヘイヴ
7 アイ・ドント・マインド

SIDE B

1 トゥエンティー・ヤーズ・ビハインド
2 キープ・イット・アウト・オブ・サイト
3 オール・スルー・ザ・シティー
4 チェック・ブック
5 オーイェ!
6 ボニー・モロニー/テキーラ

A2、B4、B5、B6のカバー曲以外はすべてギタリストのウィルコ・ジョンソンが書いたオリジナル曲だ。彼は77年に脱退してしまうが、在籍中はドクター・フィールグッドのオリジナル曲のほぼ全曲を書いた。

その後のメンバー・チェンジは激しく、ドクター・フィールグッドは実質的にはヴォーカルのリー・ブリローのバンドだったが、そのリー・ブリローが1994年に他界し、オリジナル・メンバーが一人もいなくなった後もモーニング娘。方式でメンバーを入れ替えながら、現在に至るまで活動を続けている。

ウィルコ・ジョンソンは実質2年ほどしか在籍していなかったが、ドクター・フィールグッドと言えば彼のギターが真っ先に浮かぶぐらい、そのインパクトは強烈だった。彼のギタープレイはその後のパンク・ロックに多大な影響を与えている。ロック史上の伝説的ギタリストのひとりと言えるだろう。

ちなみに彼がピックを使わなかったのは、もともと左利きだったため、ピックがうまく使えなかったから、ということだったらしい。

彼は2013年に膵臓がんを患い、重さ3kgの腫瘍を切除して克服したと伝えられたが、2022年11月21日に英国の自宅で死去した。75歳だった。

↓ アルバムの冒頭を飾る衝撃の「シー・ダズ・イット・ライト」。

↓ ドクター・フィールグッドのデビュー・シングルとなった「ロクセット」。

(Goro)

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