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David Bowie
“Hunky Dory” (1971)
1971年当時、デヴィッド・ボウイは一発屋になりかけ、人々の記憶から消えかかっていた。
1969年7月にリリースしたシングル「スペース・オディティ」が全英1位、全米15位のヒットとなったが、その後リリースしたシングルやアルバムはすべて鳴かず飛ばずで、1971年12月にリリースされた本作もまた、売れ行きは芳しくなかった。
しかしこの半年後にリリースしたアルバム『ジギー・スターダスト』が大ヒットすると、リスナーたちは遡って本作も買い求め、全英3位まで上昇する高セールスを記録した。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 チェンジス
2 ユー・プリティ・シングス
3 8行詩
4 火星の生活
5 クークス
6 流砂
SIDE B
1 フィル・ユア・ハート
2 アンディ・ウォーホール
3 ボブ・ディランに捧げる歌
4 クイーン・ビッチ
5 ザ・ビューレイ・ブラザース
それまでの3枚のアルバムは、ボウイ自身が「デヴィッド・ボウイの音楽」を探しあぐね、暗中模索している時期だったように思う。
しかし本作で、ミック・ロンソン (g)、トレバー・ボルダー (b)、ミック・ウッドマンジー (ds)という、後にスパイダーズ・フロム・マーズとなるバンドを組んだことによって、ボウイは自身に相応しい音楽スタイルを見つけることができたのだろう。
A1「チェンジス」は、セールスこそ全米41位止まりだったが、ボウイの楽曲中でもポップなメロディを持つ代表曲のひとつだ。また、ボウイ初期の名曲として名高いA4「火星の生活」は、フランク・シナトラが歌って大ヒットしたあの「マイ・ウェイ」と同じコード進行で書かれている。
もともと「マイ・ウェイ」はフランスのシャンソンにそのオリジナルがある。その曲の英語詞を書くことをボウイが依頼され、書き上げたもののお蔵入りとなり、かわりにポール・アンカが英語詞を書いてシナトラが歌ったものが「マイ・ウェイ」として大ヒットしたという経緯があったのだ。「火星の生活」はその件に対する悔しさを引きずる想いがあったのだろうと想像できる。
わたしにとっては、本作の中で最高の曲は、A6「流砂」である。以前にこの曲を記事で取り上げたこともあるが、ボウイ初期の隠れた名曲であり、二十代中頃のわたしの心に深く刺さった美しいバラードだ。
↓ 「マイ・ウェイ」のパロディとされる、初期の代表曲「火星の生活」
↓ 自身の無力さについて歌う、本アルバム中最高に美しい曲「流砂」。
(Goro)