⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
Bruce Springsteen
“Born To Run” (1975)
17歳の頃、そのなにもかもに憧れるほどに好きになったアーティストだった。
わたしはこのレコードジャケットを、一人暮らしの木造アパートの壁に飾っていた。むさくるしい髭面だけどこの世の誰よりもカッコよく見えた男を、憧憬とともに見つめていたものだ。
その当時、今から思えば社会に出るのが少し早すぎたわたしは、自分がまだ何者でもなく、何ができるのかもわからない、無限の可能性への希望と、途方もない不安を同時に抱えて震えて生きているような状態だった。だからその歌詞や、スプリングスティーンの何かに必死に抗うような歌声や、激熱なのに哀愁のあるサウンドに感情を揺さぶられずにはいられなかった。
本作はブルース・スプリングスティーンの出世作となった3rdアルバムだ。1975年8月にリリースされ、全米3位の大ヒットとなった。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 涙のサンダー・ロード
2 凍てついた十番街
3 夜に叫ぶ
4 裏通り
SIDE B
1 明日なき暴走
2 彼女でなけりゃ
3 ミーティング・アクロス・ザ・リバー
4 ジャングルランド
わたしはこのアルバムを聴くと、今でも一瞬でその世界に戻っていくことができる。今から思えば少年みたいな年齢の頃に聴いていたときの、あの熱い気持ちがよみがえってくる。
オシャレではないしも、あまりクールでもないかもしれないけれども、まあロックなんてそんなものだ。
熱い気持ちになれる音楽は素晴らしい。
熱くなれなくなったら、もうロックなんか聴かないほうがいいのだ。
わたしはこんな年になってもまだ、そう思いながらロックを聴いている。
A1「涙のサンダーロード」とB1「明日なき暴走」は、どちらもわたしがロック史上最も好きな曲のひとつだ。これと同じくらい好きな曲を探すのはなかなか難しい。
「涙のサンダーロード」は、閉塞感しかない地方の町の片隅で生きる孤独な若者が、決して美人でもないけれどなによりも大切な彼女に「この街を出よう」と告げる歌だ。彼は自由になるために、成功するために、ギターだけを手にして雷鳴が轟く道のりを走り始める。曲全体がクレッシェンドのように盛り上がっていくこの曲の最高潮となるエンディングの、クレモンズの力強いサックスを聴くと、今でもアツアツの感動が全身を貫く。
「明日なき暴走」はもう何千回聴いたかわからないけれど、今でもイントロを聴いた瞬間に全身の血がたぎるような気分になる。
わたしは残念ながらスプリングスティーンのライヴを観たことがないけれども、もしも目の前でこの曲が演奏されようものなら、わたしは知らないおっさんと肩を抱きあって号泣する自信がある。
昼は路上で汗を流しながらアメリカンドリームを待ちわび
夜は自殺マシンに乗って高級住宅の町を駆け抜ける
この町はおれたちを骨抜きにして死の罠へと誘いこむ
若いうちにここから抜け出さないとな
おれたちみたいな何も持たない者は
走り続けるために生まれてきたんだ
(written by Bruce Springsteen)
その通りだ。
ちょっと疲れてくると油断して走るのをやめて座り込み、いつのまにかなんだか息苦しくなっていたりする。
われわれのような「なにも持たない者」が生きるすべをときどき思い出すためにも、やっぱりときどきこの曲を聴かなきゃな。
↓ オープニングを飾る「涙のサンダーロード」。あらゆる意味で、ちょっとこんな曲は他にない。
↓ スプリングスティーンのテーマ曲とも言える永遠の名曲「明日なき暴走」。
(Goro)
コメント
高校時分、ベストアルバムを聞きかじっていました。正直ちょっとむさくるしい(熱い)感じもあって遠ざけていましたが最近「闇に吠える街」を聞いてやっぱいいなーと再認識しました。「明日なき暴走」と「闇に吠える街」を聞くといかに日本のロック勢が影響を受けたかわかって恥ずかしくなるくらいです。泉谷しげるの「俺の女」なんてまさに!って感じです。
サカモトさん、コメントありがとうございます!
たしかに泉谷しげるの『’80のバラッド』や『都会のランナー』あたりを聴くと、ブルース・スプリングスティーンとの共通性が感じられますね。
当時はとくにそんな意識はしてなかったのですが、今思えば泉谷とスプリングスティーンは、わたしが17歳の頃に一番よく聴いていた二人でした。