“Bob Dylan”
さてこれから、ボブ・ディランのアルバムを全部、リリース順に聴いていきます。
全部で何枚あるのか、怖いのであえて数えていないけれど、めちゃたくさんあることは間違いない。
まずはこの、1stアルバムだ。ディランが20歳のときにリリースした、デビュー・アルバムである。
それにしても、20歳のフォーク・シンガーがいきなりメジャーのコロムビアからのデビューである。
社内の猛反対にもかかわらずディランと契約したのは、名プロデューサー、ジョン・ハモンドである。ディランは自伝で、ハモンドが楽し気に目を輝かせて「わたしは嘘のなさを評価する」と言われた、と記している。
わたしはこれをレコードで持っている。わたしは20歳のときにCDプレーヤーを購入して、それ以降はCDオンリーになったので、レコードで持っているということは、十代の頃に買ったということなのだ。
全曲ディランの歌とギターとハーモニカだけというシンプルな録音で、ディランのオリジナル曲も「ニューヨークを語る(Talkin’ New York)」と「ウディに捧げる歌(Song to Woody)」の2曲のみで、それ以外はトラディショナルや古いブルースやカントリーだ。
このレコードを初めて聴いたとき、もうなんだか、全然ピンと来なかったことをはっきり憶えている。
なんてつまらないレコードだ、と思ったものだ。
たぶん5回ぐらいしか聴かなかったのではないか。
いや、もっと少なかったかもしれない。
これを今回、たぶんだけど、30数年ぶりぐらいに、聴いてみたのだ。
あのときの若さほとばしる青春のわたしはもっと、ギャンギャンドカドカした刺激的な音を求めていたのだろう。あくまで表面的な。
でも今のわたしは、このレコードのディランの、ものすごいキレ味とパッション剥き出しのヴォーカル、カッコいいギター・プレイ、疾走感のある演奏に圧倒される。
なんだこれ、すっげーいいじゃん!
と思ったのが、今回ディランのアルバムを全部聴き直してみよう、と思ったきっかけでもあったのだ。
あくまでフォークをやっているのだけれど、これは明らかに、ロックンロールを通過した後でのフォークの解釈なのだろう。
20歳とは到底思えないほどの完成度ではあるが、同時に20歳の若者らしい激しい初期衝動も聴くことが出来る。
絶叫したり、唸り声を上げたり、吐き捨てるように、咬みつくように、感情剥き出しに歌うディランは、まるでたったひとりでロックンロールをやる方法を模索しているようにすら思えてくる。このジャケットに写っている、あどけない、人の良さそうな少年が歌っているようにはとても思えない。まるで、ひとりセックス・ピストルズだ。
それにしても、若い頃に聴いた印象とはずいぶん変わるものだ。
体の細胞はどんどん死んで、どんどん新しく変わっていくらしいが、三十数年の間にわたしの全細胞はすでに別のものになっているに違いない。わたしはあの頃の若いわたしとすでに同一人物ではないのである。時代はめまぐるしく変わるが、わたしもそこそこ変わるのだ。
でも、これを聴いて「すっげーいいじゃん!」と思える最新細胞のわたしになれたのは嬉しい限りだ。
↓ Curtis Jones作「ハイウェイ51(Highway 51 Blues)」
↓ トラディショナル「死にかけて(In My Time of Dyin’ )」