Bob Dylan “Empire Burlesque”
わたし19歳、ディラン44歳の作品。19歳と44歳なんてこの世でいちばん噛み合わない年齢にちがいない。その感じの通りに、当時リアルタイムで聴いたものの、あまりピンと来なかった印象だ。
1曲目のイントロを聴いただけで、懐かしの80年代の空気の匂いに包まれるようだ。エコーのかかったスネア、シンセサイザーの響き、MTVでさんざん聴いた、あのきらびやかで能天気で、幸せいっぱいだけどとことんチープな80年代サウンドだ。
前作『インフィデル』はモノトーンの渋いサウンドだったけど、今回は派手に彩色した感じだ。プロデューサーやエンジニアに「いっちょ、流行りのやつで頼むわ」と注文したのかもしれない。前年のブルース・スプリングスティーンのアルバム『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』の大成功などにも刺激されたのかもしれない。
メンバーは前作に引き続き、ミック・テイラー、ロン・ウッド、スライ&ロビー、トム・ペティ抜きのハートブレイカーズなどだ。メンバーの顔触れの印象と、実際に聴こえてくるサウンドがあまりにも一致しなくて戸惑ってしまう。
このあたりから、ディランは絶不調期に突入する。
たぶん、時代の流行となったサウンドと、彼の音楽が本質的に合わなかったのだ。
それを無理に合わせようとして、迷走している感じだ。
時代は変わる。 The Times They Are a-Changin.
そう言えばジャケットのデザインも、いかにも80年代という感じだ。ジャケットのディランは首を傾げているように見えてしまう。「うーん、これで良かったのかな?」と。
良くないよ、ディラン。なんか、いろいろ間違ってる気がする。
1曲目は親しみやすい曲調の「タイト・コネクション」から始まる。このPVは東京ロケだ。倍賞美津子が出演している。他にも沢田研二や佐野元春も出演していたらしいが、カットされたらしい。なんと贅沢な。
ディランがホテルの部屋で写真誌《Focus》を見ているシーンから始まる。懐かしいな、Focus。新潮社だったな、たしか。
なんか女子にモテモテな感じのチャラい内容のPVだ。ラストの、コーラスガールに挟まれて振付を下手クソに踊るディランは必見。
↓ 「タイト・コネクション(Tight Connection to My Heart)」