Bob Dylan “Good as I Been to You”
ディラン51歳、デビューから30年でついに原点に還った、ディランの第二章、あるいは後半戦のスタートと言えるアルバムだ。
1962年にリリースした1stアルバムを彷彿とさせるような、バンド無し、ディラン1人で歌とアコギとハーモニカで録音した、全曲トラディショナルやフォーク、ブルースの古典だけの、オリジナル曲無しのアルバムだ。
ヴォーカルは昔に比べればずいぶん枯れて、力強さも失っているとはいえ、歌に対して愛情をこめて真摯に歌う姿勢が戻って来たように聴こえる。
アコギは繊細でありながら力強い、良い音で録れている。あらためてディランの弾き語りの上手さに感心する。味のあるハーモニカもいい。
トラディショナル・フォークの弾き語りはディランが十代から情熱を傾けてやってきたことだった。こういう弾き語りをやらせたらディランの右に出る者はいないだろう。大昔の曲ばかりとはいえ、素敵なメロディーも多い。
それにしてもディランの声、51歳にしてもやけに老けて聴こえる。開店45周年のスナックの大ママさんみたいな。もともと若い頃から老けた声だったからそうなるのかな、やっぱり。
全米51位、全英18位とセールスは低迷を続けているが、日本ではオリコンで50位と、健闘したほうだ。
地味なアルバムだし、大傑作というわけではないかもしれないけれども、ビッグ・ネームのゲストを大勢集めて、好きでもないのに流行のサウンドに加工させて、魂が抜けたようなくだらないアルバムを作るよりよっぽどこっちのほうがいい。
ジャケットのディランの、帽子もサングラスもなし、素のままのオジサンの姿をさらけ出している、堂々たる写真がまたいい。
↓ アルバムのオープニング・トラック「フランキーとアルバート(Frankie & Albert)」