Don McLean
American Pie (1971)
1959年2月3日、バディ・ホリー、リッチー・ヴァレンス、ビッグ・ボッパーという、当時人気絶頂の若き3人のロックスターを乗せた小型飛行機がアイオワ州のトウモロコシ畑に墜落し、彼らは還らぬ人となった。
当時13歳の少年だったドン・マクリーンはアルバイトで配達していた新聞の記事によってその悲劇を知り、衝撃を受けた。
その彼が26歳になり、1971年11月にシングル・リリースした自作曲「アメリカン・パイ」は、その日のことを「音楽が死んだ日 (The Day the Music Died)」と歌っている。
8分を超える長い曲のため、当時のシングル盤は前半がA面、後半がB面というかたちで収録された。それでもラジオのDJたちはその両面をオンエアし、1972年の年間チャートで3位になるほどの大ヒットを記録した。
この曲はロックンロールが誕生した1950年代後半から1970年までのロック激動期について歌われた歌である。50年代の「音楽を聴いて幸せになれた時代」からずいぶんロックンロールは変わってしまった、昔のアメリカらしさは失われてしまった、という内容だ。
そのロックンロールの変遷や社会状況の変化が、実名こそ出てこないけれども、それとわかるような暗喩で歌われていく。
この歌の歌詞がわかりにくいものになっているのは、随所にその時代のヒット曲のタイトルや歌詞の一部や小説のタイトルなど、時代を象徴するワードを織り込んだものになっているため、文として少しややこしいものになっているからだと思う。
大意はこうだ。
ロックシーンの主役はエルヴィスから、ボブ・ディランやイギリスのバンドに替わった。
ロックンロールはだんだん巨大産業になっていった。
ザ・バーズが登場し、ウッドストックに数万人の人々が集まった。
ジャニス・ジョプリンも登場し、そしてすぐに去っていった。
ベトナム戦争、チャールズ・マンソン事件、オハイオの学生デモでの射殺事件があり、オルタモントではストーンズが歌っている目の前で人が殺された。
音楽の幸福な時代は終わってしまったのだろうか。
古き良きアメリカの時代は終わってしまったのだろうか。
繰り返されるサビの部分ではバディ・ホリーのヒット曲の歌詞とほぼ同じ「This’ll be the day that I die (この日がおれの死ぬ日となるだろう)」と歌われている。
この曲はまた、2000年にマドンナがカバーし、世界中で大ヒットした。
ダンスミュージック風のアレンジになっているうえ、途中の歌詞を飛ばして短くしているため、このバージョンが好きではない方も少なくないだろうと思う。
でもわたしはマドンナの、ロックンロールを愛おしむ女神のような優しさに満ちあふれた声で歌われるこのカバーが、とてもとても好きだ。
↓ 公式のリリック・ビデオだが、時代の変化を背景のデザインで伝えていてかなり出来がいい。思わず見入ってしまうほどだ。
↓ マドンナが主演した2000年のアメリカ映画『2番目に幸せなこと』に使用された曲で、イギリス・カナダ・オーストラリア・イタリア・ドイツ・スイス・オーストリア・フィンランドのチャートで1位を記録する世界的ヒットとなった。しかしなぜかアメリカではシングル・カットされず、アルバムやベスト盤にも未収録である。
(Goro)