オーティス・スパン『オーティス・スパン・イズ・ザ・ブルース』(1960)【最強ロック名盤500】#71

Otis Spann Is the Blues - Remastered [Analog]

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【最強ロック名盤500】#71
Otis Spann
“Otis Spann Is The Blues” (1960)

米ミシシッピ州出身で、両親共にミュージシャンだったオーティス・スパンは、7歳でピアノを弾き始め、8歳で地元のブルース・コンテストで優勝するという神童だった。

1946年に22歳でシカゴに移り、昼間は左官の仕事をしながら夜はラウンジなどで演奏活動を行うと、その独特のピアノ・スタイルで知られるようになり、1952年にマディ・ウォーターズ・バンドに加入する。

このマディ・ウォーターズ・バンドは、よくぞまあというぐらいに天才や個性派が吸い寄せられるように集まったシカゴ・ブルース最高峰の集団で、ここから何人もの個性的なブルースマンが名を挙げ、巣立っていった。このオーティス・スパンもそんな一人だ。

わたしは彼の、打鍵が強く、ぶっとい音のわりに濁らないピアノの音色が好きだ。そして本職ではないはずのヴォーカルも、伸びやかで艶のあるなんとも良い声だ。

しかしこのアルバムの魅力はそれだけにとどまらない。
本作に参加しているもう一人のプレイヤーは、この当時はまだ無名に近かった、ギタリストのロバート・ロックウッド・ジュニアだ。本作はこの二人だけで作られている。

ロックウッドはアーカンソー州の出身で、彼の母親は夫と離婚した後に、なんとあのロバート・ジョンソンと10年に渡って断続的に暮らし、その間にロックウッドはロバジョンからギターの演奏を教わったのだった。ロバジョンから直接演奏を学んだのは、後にも先にもロックウッドただ一人だけである。

本作は全10曲中2曲がインストで、それ以外の4曲ずつを、スパンとロックウッドがリード・ヴォーカルを分け合っている。ロックウッドの滋味あふれる堂々たるヴォーカルがまたいい。カッコ内はリード・ヴォーカル。

SIDE A

1 ザ・ハード・ウェイ (スパン)
2 テイク・ア・リトル・ウォーク・ウィズ・ミー (ロックウッド)
3 オーティス・イン・ザ・ダーク (インスト)
4 リトル・ボーイ・ブルー (ロックウッド)
5 カントリー・ボーイ (スパン)

SIDE B

1 ビート・アップ・ティーム (スパン)
2 マイ・デイリー・ウィッシュ (ロックウッド)
3 グレイト・ノーザン・ストンプ (インスト)
4 アイ・ガット・ランブリング・オン・マイ・マインド #2 (ロックウッド)
5 ウォリィド・ライフ・ブルース (スパン)

二人の名人だけによる緊張感あふれるセッションは、これ以上なにもいらないほど豊かな音楽を奏でる。

なので「オーティス・スパン&ロバート・ロックウッド・ジュニア」という名義でも良さそうなアルバムだが、あくまでオーティス・スパンが主役なのである。ジャケットにもロックウッドは後ろのほうにぼんやりとしか映っていない。

スパンの書いた曲は、読み書きのできない男がトラブルに見舞われる物語や、綿花畑やトウモロコシ畑の重労働に従事する男の話などで、南部から都会に出てきて苦労している当時の最下層の黒人たちの聴衆の胸を打った。

ジャケットの写真はライヴ中ではなく、本作のレコーディング中の写真である。
汗だくになりながら恍惚とした表情で音楽にのめり込んでいるスパンの表情が印象的だ。その印象そのままの、魂の込められた、誠実で熱いブルースが繰り広げられている。


↓ アルバム冒頭を飾る、スパンのヴォーカルによる「ザ・ハード・ウェイ」。

The Hard Way (Remastered)

↓ ロックウッドの作・ヴォーカルによる「テイク・ア・リトル・ウォーク・ウィズ・ミー」。

Take A Little Walk With Me (Remastered)

(Goro)