単身英国ロック界に乗り込んだ”姉御”の野望 〜プリテンダーズ『愛しのキッズ』(1980)【最強ロック名盤500】#280

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【最強ロック名盤500】#280
Pretenders
“Pretenders” (1980)

久しぶりに聴いたけど、やっぱりいい声だな。

芯の強い性格と知性を感じさせるような、女性にしては低めの魅力的な声だ。”姉御系”と呼びたいような、男性からも女性からも支持されるタイプだろう。

プリテンダーズは女性ヴォーカリスト、クリッシー・ハインドが中心になってイギリスで結成したバンドだ。

もともと彼女は米オハイオ出身のアメリカ人だったが、21歳のときにロンドンに移住した。建築会社で働いた後、音楽誌NMEに記者として就職し、後に彼女自身が「中途半端な哲学的な戯言と無意味な長文」と表現するような記事を書いた。

それも長くは続かず、マルコム・マクラレンとヴィヴィアン・ウエストウッドが経営するブティック『SEX』で働き、セックス・ピストルズのメンバーと知り合った。彼らに刺激を受けて、彼女もバンドをやろうと奔走するが、当時は女性がロック・バンドに入ることは難しく、プリテンダーズを結成するまでにそれから3年もの月日を要した。

プリテンダーズとして1979年1月にシングル「ストップ・ユア・ソビン」でデビューしたとき、クリッシー・ハインドは27歳になっていた。

当時のイギリスではは女性ヴォーカルのロック・バンドはまだめずらしい存在だったが、なんだかんだ言ってもロックの世界というのは男社会なので、男勝りなぐらいの女性じゃないとなかなか成功もしなかったのだろう。

クリッシー・ハインド、ジョーン・ジェット、スージー・スー、デボラ・ハリー、ジャニス・ジョプリン、アニー・レノックス、グウェン・ステファニー、ドロレス・オリオーダン、…いかにも気が強そうで、そしてきっと肉食系に違いない(※個人の感想です)。

プリテンダーズの音楽には、パンクのスピード感やキレ味と同時に、60年代ロック&ポップスのエッセンスが感じられる。そしてラフでありながら、洗練されている。

プリテンダーズというバンド名はプラターズの「ザ・グレート・プリテンダー」から取られたというが、そんな古典的ポップスへの敬意も彼らの音楽性によく表れていると思う。

本作は1980年1月にリリースされた、プリテンダーズの1stアルバムだ。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 プレシャス
2 フォン・コール
3 アップ・ザ・ネック
4 ラヴ・ボーイズ
5 スペース・インヴェーダー
6 ザ・ウェイト

SIDE B

1 ストップ・ユア・ソビン
2 愛しのキッズ
3 プライヴェート・ライフ
4 恋のブラス・イン・ポケット
5 涙のラヴァーズ
6 ミステリー

デビュー・シングルのB1「ストップ・ユア・ソビン」は、キンクスのカバーだ。素晴らしい出来だけれども、全英34位、全米65位というイマイチな出足だった。

しかし3枚目のシングルとしてリリースされたB4「恋のブラス・イン・ポケット」が全英1位、全米14位、欧州各国でチャート上位を獲得するなど、世界的なヒットとなった。その勢いに乗って、アルバムも全英1位、全米9位の大ヒットとなった。

2枚目のシングルB2「愛しのキッズ」は全英33位止まりだったが、日本では彼らの出世作となるほどヒットし、本作のアルバム・タイトルも『愛しのキッズ』と邦題が付けられた。わたしも本作のなかではこの曲がいちばん好きだ。

プリテンダーズは1979年にデビューして以来、メンバーチェンジを繰り返すものの一度も解散することなく、芸歴46年、現在も活動を続けている。素晴らしい。

クリッシー・ハインドは現在のバンドを次のように語っている。

「昔と違うのは、もうバンドメンバーに怒鳴り散らさないってことくらいね (笑)。今のラインナップは最高よ」(ガーディアン誌インタビュー 2023年)

↓ クリッシー・ハインドが低く優しい声で、つらい境遇の少年を慰めるように歌う、「愛しのキッズ」。ジェイムズ・ハネマン=スコットによるイントロのギターで早くも胸が熱くなる。

↓ 世界的ブレイクに繋がった大ヒット曲「恋のブラス・イン・ポケット」。

(Goro)

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